30分ほどして、和美はドルチェという店に姿を現した。
明らかに、かばんを持つ手が震えている。
店の前まで付いて来たと思われる、
和美が一ヶ月ほど働いたのであろう店の男性が、
目配せをして去っていった。

「まぁ水でも飲んで、まず落ち着こうか」

こちらが冷静になればなるほど、彼女には恐怖心が増すもので、
コップを持つ手も震えて持てない。

「あんた、逃亡資金うちの金庫からパクったなぁ?5万。
・・・なんで5万なん?おかしくないか?
もっと金入ってたやろ?遠慮したん?
普通はな、飛んで逃げるんやったら、全部持っていくぞ?
それになぁ。あんた他店の爆弾やろ?なんで自分の店に逃げて帰らんかったんゃ?
普通は店に帰ったら、歓迎されて匿(かくま)われるのがスジやろ?
おかしいなぁってずっと思ってたのよね・・・。」


よく考えてほしい。
もし自分があらゆるツケや借金を残して明日雲隠れするならば、
目の前の金庫の金をすべて持って逃げるのではないか?
これからまた知らない土地で、隠れて暮らすのなら、
目先の金が何より大切ではないだろうか?
ましてや、闇金融にまで手を染めている人間。
金銭感覚はすでに麻痺してるハズなのです。
極端に言えば、1万も50万も100万も同じ金に見えておかしくない
実家に黙っている借金があるなら、借金だけでも返しながら
どこかで働くつもりだったろう
それが、なぜおそらく交通費だけにしかならないような5万
という金だけをパクって逃げたのかが不思議で仕方なかったのだ

「とりあえず、今日は遅いからホテル取ってあるから行こ。
送って行くから、で、そのホテルに泊まるのは君だけやから。」

「・・・え? 店長・・・さんは?」

「おれは近くに事務所あるから、そこに泊まる。
明日の朝、また迎えに行って、大阪帰るから。」

「・・・」

「だからな。まだ逃げる気やったら逃げたらエエし、
あんたのこれからの事はゆっくり考えるから
明日の11時に迎えに行くから、自分とゆっくり話して
結論出し。
明日ホテルに迎えに行った時に居たら、その時にちゃんと話
聞かせてくれたらエエから」

うちで働いていた数日間、和美は結構楽しそうに雑用をこなしていた
そう思い込んでいただけかもしれないのだが。
『ワケアリ』の方々を幾人も見てきたが、
この和美は、”ただ”のワケアリではなく、もっと複雑な『ワケアリ』
を抱えていたのではないかと思い、
あえて、和美を試してみようかと考えた。
逃げたくてわざわざ東京にまで来ていたとは思えなかったのだ。

完結編につづく


でりのHPはhttp://www.vesta.dti.ne.jp/~hmhiro/

よろちくどうじょ♪

尚、この話に出てくる団体名、及び個人名、固有名詞はもちろん全て実在しません。
そして、この話をお読みになって万が一被られた被害にたいして、
筆者でりは一切の責任は負いませんので・・・あしからず。
まぁそんなコト有り得ないと思いますが(笑)

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