デリヘル人情劇場「ム所帰りの男」その1
2002年10月15日「おぃ。デリ坊暇あるかの?」
「今なら大丈夫ですよ」
「もう近くにきてるからの、ちょっくら事務所よるからの」
時計の針も午前2時を指す頃、
電話の主は20分後に事務所に寄ると言い残し
電話を切った。
きっちり20分後、事務所のドアがノックされる。
「さすが元お回りですね。いつも時間通りっすよ」
「時間を守る。これ常識やからの」
この人は、言葉の終わりに「の」を必ず付ける。
店の従業員からは「ののおやじ」という
そのままのニックネームで通っている。
この「ののおやじ」元警察官である。
定年退職だからもう60はとうに過ぎている・・・
だが、この「ののおやじ」も立派な店の常連なのだ。
「で、こんな豪勢な寿司持ってきて何か用事事ですか?」
目立ちすぎる寿司の折り詰に目が行かないわけは無い。
この折り詰に気づき、突っ込みを入れなさい!
と主張する赤と藍の包装紙に目が行かない方がおかしい。
「あぁ〜参ったのガハハっ。デリ坊には隠し事できんの
あ〜参ったのぉ〜」
「あのですね。自宅に女呼ぶ時は、約束の時間に1分でも遅れると
ブーブー言って、挙句に毎回毎回安くしろだの、セコイ事言ってる人が
こんな寿司持って来たら誰でも何かあるって分かりますよ。
しかも、こんな時間にぃ・・・分かりやすすぎですょ」
「いやぁの。一人面倒みてやってくれんかの」
「・・・・え!?」
予想外の一言に少し戸惑った
「ほぉ。外で女でも作ったんですか?やりますねぇ〜
鎌田さんもまだまだ捨てたモンじゃないっすね〜」
「若モンがジジイからかうもんでないの がはは。
いやぁの。その・・女でなくの、男をみてやってほしいんだがの・・・」
「男ですか・・・。年齢は?何してた男です?」
「少し言いにくいがの・・・」
数人の従業員が目に入ったのか、場が悪そうなので場所を変えて話をすることにした。
この鎌田さん通称「ののおやじ」の紹介でうちに働く人間がすでに一人いる。
ののおやじがまだ現役の警察官の頃、
いきなり事務所にやって来て、この娘をここで世話してくれと
半ば強引に入店させた。
名は「麗華」といい、日本人と中国人のハーフ
普段はもう一つある事務所の受付をしながら、人手の足りない夜は風俗嬢として働く。
この麗華は電話の受付や接客の時には、流暢な日本語なのだが、
事務所で雑談などする時には、片言の日本語で話す
「シャチョサン、オチャノミマスカ?」
「アタシ、昨日イタダイタオ金デ、キレイノ服カワセテもらたデ ス」
中国人の女性はよく働くというが、中国人の血を半分受け継いでいる麗華はとにかくよく働く。
私と同じように、一日20時間は電話の前で待機するか、デリヘル嬢として
お客の下へと出向く。
最も信頼できる従業員のうちの一人だ
ののおやじと事務所を出ると、車の前で『今日は』風俗嬢である麗華が帰ってきた
「わぉ!!!カマタさんお元気デスカー!今日もレイカ イパイ イパイガンバテマスヨ〜!
カマタさんノ オカゲネ!シャチョさんノ オカゲネ!レイカゲンキネ!」
ののおやじは、そうかそうか!と満足げに頷き、麗華の肩を一度ポンとたたき
「いい顔してるの いい顔してるの」
と笑いながら車に乗り込んだ。
麗華とののおやじの詳しい関係は知らないが、
きっとそれは二人の「わけあり」なんだろう。
いらぬ検索はしないほうがいいのだと、聞くことは無かった
つづく
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