デリヘル人情劇場「ム所帰りの男」その2
2002年10月16日もうまもなく3時になろうかという時間にもかかわらず、
深夜のファミレスは若者で賑わっていた。
店内の角の席に腰を下ろし、「ののじい」は口を開いた。
「実はの、でり坊。わしガラウケになっての、
一人の男を面倒見ることになっての・・・」
「ガラウケすか・・・」
「あぁ。でな、そいつをお前のとこでの、しばらく雑用でも
掃除夫でもなんでもエエけの、使ってやってくれんかの思うての・・・
頼む!ひろ坊ぉ頼む!」
ガラウケとは、【身柄引き受け人】のことで、
元警察官のののじいが言う、【身柄引き受け人】とは、
刑務所から出てくる人間の身元引き受け人を指す。
「ガラウケ人ですか・・・
仕事って言ってもですね、うちの仕事は男ならドライバーしかないですよ?
そのガラウケさんは免許持ってるんですかね?」
「まぁそんな嫌な顔しなさんな。でり坊の顔にの、『いや』とはっきり出とる
免許はもっとる。なんせ凱旋車乗ってたからの ガハハ
といっても、もう20年も前の話じゃがの」
さすが元警察官、現役の頃は刑事一筋40年の、ののじい。
人の顔色、目の動きでこちらの感情は隠したつもりでも
すべて見透かされている。
実際、やなことになりそうな話に、なんとか断る手段を見つけようと考えていた。
「凱旋車ですか・・・。右の翼関係のお仕事・・・ですか?」
ますますヤな事になりそうだ。
うちはアットホームをモットーにやっている。
そちら関係の方々とは全く関係を持たない、完全健全店なのだ。
「だからそんな顔すんなぁてぇ。
そいつは勘蔵ちゅう名前での、今はもう70前のじじでの、
そっちの人間とも完全に切れとる。
でなかったらワシがガラウケになんぞならんがの・・・
勘蔵はワシがパクったヤツでの、13年ぶりに出てくる
きっとお前とも気ぃ合うから面倒見たってくれの」
「13年て・・・何して入ってたんです?」
「それは聞きなさんなって・・・。塀から出れば普通の人間ょの
でり坊らしない!
いずれ分かる時も来るじゃろしの・・・
一週間後な、きっちり一週間後の7時にひろ坊の事務所によこすからの
たのんだぞ!たのんだぞ!」
ののじいは自分の用件を告げると、グシャっとレシートを握り
一人でレジに向かい、そそくさと帰って行った。
ム所帰りの男かぁ・・・。70歳になろうかという男・・・。
13年前にてことは、57でム所に入った事になる。
どんな男だろうか。
ののじいがパクった70歳の男
それから一週間、業務日誌には
ム所帰りの男が来るまであと5日 あと4日
と日めくりのように書かれてある。
今までに出会ったことの無い人間、
気になって仕方なかったのを覚えている
http://www.vesta.dti.ne.jp/~hmhiro/
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