デリヘル人情劇場「ム所帰りの男」その3
2002年10月20日「じゃあな、じいさん。まさかとは思うけど、
もう二度と戻ってくるんじゃないぞ」
見守りの看守がおしきせの言葉をかける。
「へい。そのあたりのごしんぺいは御無用で。
もういっぺんヤマを踏むぐえいの気力が残っていれァ、とうの昔に放免になってまさァ!
ごらんの通り、ちゃんとガラウケ(身柄引受人)もおりやす。
どうぞこの老いぼれの行く末なんざお気になさらずー」
こんなやりとりがあったかどうかは知らないが、
約束のム所帰りの男がやってくる日が来た。
いや、来てしまったと言った方が適当だろう
事務所には公休で休みのはずの従業員の顔もあり、
狭い事務所はム所帰りの男が来るまでの間、
「なにやった人かしら?」
「きっと誰か殺ちゃったのよ・・・だって13年でしょ?
長すぎだもん」
「あたしそんなコワそうな人の車乗りたくないですぅー」
「私ヘイキ。デモ、ナンダカ ドキどきデスヨー」
などとみな好き勝手な事をいい、盛り上がっていた
「和美!みか!ともみ!仕事入ってんだろが!さっさと仕事行ってこい!」
数人を事務所から追い出し、時間になるのを待った。
時間にうるさい「ののじい」の事だ、まず間違いなく7時きっかりにやってくる
ここは「わけあり」の人間の吹き溜まりだが、今日来るはずの男は、
正真正銘の「わけあり」にちがいない。
13年の懲役を終え、70になろうかという男
いったいどんな男なのだろう・・・
「おじゃまいたしャす!!」
玄関が開くと同時に、張りのある声が響いた
「今日からここでェお世話になりャす わたくし勘蔵と申しャす!
鎌田のダンナに世話ァいただき ここに参りィャした
でり親分てェ方はご在宅ですかィ!」
部屋にピンと張り詰めた空気が流れ込んだ。
「ドス」の利いた声が部屋に緊張をもたらす
「麗華お連れして」
「アィヨです」
この場で唯一人緊張感のない麗華が玄関にパタパタとスリッパの音を立てながらその男を出迎えに行った。
部屋に入ってきた男は小柄で、きっちりと刈られた坊主頭は白髪だった
「でり親分って方はどちら様でし」
「私ですが・・」
「こりゃ随分若けェ親分でェ。自分は勘蔵と申しャすこの先短い命でャすが、こちらで自分の命(タマ)ァ捧げる覚悟で参りャした!
柄受けの鎌田のオヤジにもそうするようにと 口をすっぺく言われてェまさァなんなりとこの勘蔵に申しつけてェおくんなせェ〜」
勘蔵は私の前で目を見開き、大きく股を割り 腰をかがめてそう言った
そして、小さな身をくるっと回し
「こちらの若ぇオナゴさん方ァ ィや 若ェと言っても新参のアッシにとっちゃァ姐サンだァ
これからァ なんなりとこの勘蔵に使い走り申しつけてくんなせぇ〜」
女性たちもあっけにとられている
何か時代劇でも見ているような そんな気分だった。
この勘蔵 後に勘ちゃんと呼ばれる男は我々の目の前で見事な『仁義』を切った。
もちろんこの後先に仁義を切られることは二度とないだろうが・・・。
「コチラコソォ ヨロシクデヤンス」
麗華が勘蔵の真似をし場が和むと、
勘蔵は頭を掻き屈託のない笑い声を響かせた
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デリヘル人情劇場「ム所帰りの男」その1は10月15日
デリヘル人情劇場「ム所帰りの男」その2は10月16日
の日記にUPしてあります
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