デリヘル人情劇場「ム所帰りの男」その5
は昨日の日記にupしてます。

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【Brutus】にはサチエというそれはそれは暗い女性が在籍していた。
世にある「不幸」という不幸を一手に引き受けている・・・
そう感じざるえない女性だった。

全く働かない夫・・・
病弱の母・・・

生活費に母の医療費とそれを一手に引き受けていること
夫から暴力を受けていること etc
あらゆる『苦』がこの女性にはのしかかっている
そういう女性だった。

しかし、勘蔵さんの初仕事で連れてきた面接希望の女性は、
そのサチエを上回るかもしれない・・・
そう思うほどの暗さだった。

「ぃや〜親分さん。あの客人、車で一言もしゃべりャせんですぜ・・・
アッシが粗相でもしちまいましたかなァ・・・
ム所に新入りでへぇって来る(入ってくる)奴よりも、暗ェ顔つきですゼェ・・・
アッシは車の中で首でもかっ切らねぇかハラハラいたしやした・・・」

勘蔵さんは事務所に帰ってくるなり、私にそう耳打ちをした。

「ササどうぞ〜。コチラにお座りください」

営業モードの流暢なやさしい声で麗華がその女性を事務所へ招きいれた。
女性は一度お辞儀をし、応接室のソファーの座った。

「私がここの店長をしてます、でりと言います。では早速ですが、持ってきていただいている履歴書を見せて頂いてもよろしいですか?」

彼女は、蚊の鳴くような声で「はい」とつぶやいた。

彼女の名前は、まどかと名付けた。
ちょうどその時、ラジオで円広志の「夢想花」が流れていたから。
とんでとんでとんで、まわってまわれる明るい奴に早くなりやがれ!
という思いを込めてみたのだ・・・・

「この業界は初めてみたいだけど、なぜこの仕事をしようと思ったのか教えて下さい」

・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・

「ここに来る前に、ホステスをしてました・・・
でもすぐクビになって、お金も必要です・・・
でも本当は、自分を変えてみようと・・・出来るかわかんないケド・・・
試そうというか・・・変わらなきゃ意味ないって・・・それで・・・この仕事
やってみようか・・・って・・・        」

こちらの耳をまどかの口元へと近づけないと聞き取れない、そんな声で彼女は言った。
今にも消えて無くなってしまいそうなまどかは、手をひざの上に置き、
うつむいたままだった。

「それでは、今日一日は体験という事でお仕事には行かずに、私の運転する車で、仕事の流れや内容を説明しながら実際に女の子の様子を見ながら、自分に出来そうか、無理かを見てみて下さい。自分でやれる!と思ったのなら、病院で性病検査の診断書を持って来て下さいそれでいいですか?」

初めてこの業界に入った人は、
まず一日実際に働いている女の子に付いて、
デリヘル一日体験をしてもらう。
そして、入店を自身で決めてもらう。

「・・・はい。よろしくお願いします・・・・・・」


あかねと言う【Brutus】開店当時からの姫を乗せ、
勘蔵さんとまどかを後部座席に乗せ仕事に向かった。
あかねは【Brutus】開店当時からの姫であり、
この子は実にオールマイティーな客に対応できる。ノーマルなプレイから大人の玩具を使ったプレイ、簡単なSMまで当店のすべてのコースに対応できる。

あかねの一番の”売り”は誠心誠意で客に接することが出できるのだった。なので、あかねはクレーム処理班として仕事に出ることが多い。クレーム処理とは、客のところへ女性が行ったはいいが、対応が悪いだの、タイプが違うだのと客からのクレームが出ると、その姫の代わりにあかねが向かうのだ。

明るい笑顔と素直なしゃべり口調で、クレーム客の機嫌はすぐに治まる。

「さて、今日はどこからですか♪
アタシ昨日A客3組も付いたんですけどぉ〜。
まぁいいんですけどねっ!今日はいっぱい乗ってて楽しいね
勘蔵さんも乗ってるし〜」

あかねはいつもテンションが高い

「とりあえず、前半にクレーム2本行ってちょうだい。
その後予約が3本って感じで」

私がそう言うと、
助手席のあかねが私の顔に笑いながらパンチをするフリをする。
もちろん誰だってクレームの一度付いた客の所など行きたくはない

「クレームの客があかねの常連になったら、手取り7:3でいいから
ささ、がんばって行きましょう」

現に、あかねに付いている常連客は、一度クレームの付いた客が多い
普通の客ならば取り分は5:5の折半なのだが、あかねは7:3の取り分の客が多いので、
他の姫よりもいつも手取り額は多いのだ。
店としても、一度クレームが付き もうウチの客にはならないであろう客が、
あかねのがんばりによって、客として残ってくれるだけで多大なメリットになっているのだ。

「まどかちゃんもクレームの処理に行けるくらいになってよ〜」

まどかは後ろでコクリと頷いただけなのか、返事は返ってこなかった。

「あぁ。まどかちゃんって言うの?アタシはあかね。よろしくね〜
ここで働いてる子はみんな結構ツライ目にあったり、
キビシイ状況の子が多いんだけど、みんな仲良く元気にってやてるから、
一緒にファイト!って感じでよろしくね。」

あかねが身を後部座席に乗り出してまどかにガッツポーズを作ってそう言った。
まどかは今度はなんとか聞き取れる声で

「まどかです よろしくお願いします」

と言い、かすかに微笑んだ。いや、微笑んだ気がした。

あかねも言っていたが、【Brutus】で働く女性はツライ目に遭っている奴や、厳しい状況に立たされている女の子が他店よりも多い。
これは、面接時にあえてそういう切羽詰った状況の女性を選び、入店させているからだった。

そういう環境の女性のほうがよく働く。ということもあるが、私自身、そういう環境の人の気持ちがよくわかる(気がした)
要するに、情に負けこいつはどうにかしてやらねば・・・
などという彼女達にっとては「ありがた迷惑」で入店してきている。
「なんとなく風俗でもしよっかな〜って」
などと面接で言う女性はしたがって一切いない。

そういうあかねは、カードローンに手を出し、
借金取りに追われ【Brutus】にやってきた。
最初はベソかいて泣いてばかりのあかねも、今ではクレーム処理班として
毎日元気に働いているのである。
自分もそうであるからこそ、新しく入った子の気持ちもよく分かるのだろう

「さて、着いたぞ。この客は先にともこが入ってクレーム付いて、今で1時間20分待ち。もっと明るい子がよかったって言ってるけど、ともこも結構明るい奴だからな・・・。ひょっとしたら態度が気に食わなかったのかもしれないから、そのあたりだけ気をつけて」

簡単に客の情報を教えると、あかねは

「へいへい。行ってきま〜す」

と出て行った。


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