朝10時から営業、翌朝5時閉店、8時より予約受付け開始

デリヘル【Brutus】のタイムテーブルである。

常にこの時間中電話が事務所に鳴り響く。

したがって、休みの日には音のない世界へと逃げ込みたくなるのだ。

休日はたまの贅沢をする。

洗練されたサービス 静寂の空間を求め、
リッツカールトン大阪でリフレッシュをする。

これが月一回の楽しみである。

そんな静寂のひと時もあと僅かに迫っていた午前4時
ホテルのフロントから部屋に電話が入った。
日頃から電話の音には極めて敏感に反応する体になっている。

「お客様。夜分遅くに申し訳ありません。お客様宛にフロントにお電話が入っておりますが、お繋ぎしてもよろしいでしょうか」

非常にソフトなフロントの声

ここに泊まっている事を知っているのは一人しかいない。
彼女は気をきさせてくれ、よほどの事がない限り、休みの日には電話をしてこない。
何かあったのだろうか・・・

「どうぞ繋いで下さい」

予想通り、電話をよこしたのは当店【Brutus】の受付兼、風俗嬢でもある麗華だった。


「デ、デ、デリさーん!大変ナコト起こっテシマッタデシヨー!麗華ドウシテよろしいカわかんないアルデス!」

少し間違った日本語は愛嬌である。

かなり慌てふためいているのだが、彼女独特の雰囲気としゃべり口調に緊張感は感じられない。

これも愛嬌である。

「どうしたぁ?落ち着いてゆっくり話してみな?」

「麗華オチツイテル場合ナイノデございますョ!大変ナコト!まどかチャン警察にユウカイされたデシて、返してホシクバでり親分サン連れてコイ、イテルですョ!麗華落ちツテられナイコト。ワカリマスカーー!?」

麗華がパニックである事は十分に理解できるのだが、いまいち内容がよくわからない。

「警察に何でまどかが誘拐されてんだ?ドライバーは連絡付くのか?誰だ?どこの所轄?身代金は?」

「エー、アー、木村君のクルマでまどかちゃんイッショ。連絡ナシデシュョ。タシカ麗華に犯人サマ、港署のモノて言ってタアルです。ミ、ミ、ミニシロ金?ミニシロ金て れ麗華聞いたコト
イマイチナシデシ・・・。」

「ミニシロ金じゃなくって、み・の・し・ろ・き・ん なっ。犯人が、人質を生きて返す代わりに何千万用意して持って来い!とかってよくドラマで言ってるだろ?そういうのを身代金ていうの。港署の犯人はオレに身代金を持って来いって言わなかったか?」

「ソイウノよく麗華ワカラナイデシが、麗華モウどうしてヨロシイョ!?アッ!ミニシロ金はデスカラぁ、デリさんデスョー!デリさんミニシロ金にモテコイ言ってタデスデス!アーもーゥ。。。麗華ドウシテいいやらデシ・・・」

事態は確かに深刻なようだのだが、なぜか彼女と話すと面白い。


「なぁ麗華。よく聞いてくれよ。オレは今から、まどかの命と引き換えに、港署に人質になりに行く。これは親分として当然のこと。もしかするとオレはこの先5年、ぃや、10年皆の所へは帰ってこれないかもしれない。 それまでこの【Brutus】の親分代理は麗華、お前に任せる。オレが戻るまでこの店を守ってくれ!できるか?」

「レ・レ・レイカが親分デスカァ!?レイカ親分さん・・・。デリ親分、まかせてクンナセェ。親分カエルマデ麗華ガンバルアルョ・・・。」

親分代理襲名にまんざらでもない様子。

店のことは麗華に任せ、兎に角港署に向かうことにした。
結局、電話の内容はハッキリ言って分からないままだった。

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