港署に着くと、2Fへ上がるように指示された。

何人か見たことのある顔があるのだが、皆いつもとは違う険しい顔付きに見えた。

「君がでりか?ちょっとこっちに来てくれるか」

刑事が指差した部屋は「取調室」

私は少しコトの事態を楽観視してた。ドライバーと女の子が捕まったと言うコトは、おそらくドライバーが撒いていたいわゆる『ピンクチラシ』が禁止区域であり、たまたま警邏中の警官に見つかり署へと連行され、そのドライバーと姫を引き取る代わりに、たっぷりとお灸を据えられ終わりと思っていたのだ。

そういう事はたまにあるのだが、その時はいつも「取調室」に入れられることはない。

何かが違う。

緊張が走る。

いったい何しでかしたのだ?

「そこって取調室ですね。オレはここに来た理由さえ知らないので、いきなりそこに入ることは拒否させてもらいます」

そう言うと、中年の刑事らしきおっさんがいきなり怒鳴り上げた

「何寝言いってんだコラァ!さっさと入れって言ってんだ!」

「おめぇらこそ何だ!?理由さえ言わずに拘留する気かコラァ!?」

場の雰囲気が一気に固まるのが良く分かる。

「お前のとこの女がたいそうなコトしでかしてるから呼ばれてんだろがぁ!!確認することがあるからココに入れって言ってんだろボケ!!グズグズ言ってるとお前のトコの受理取り消すぞおんどりゃ!」

キョウビの警察はヤクザよりモノの言い方が汚い。

「誰も入らんなんぞ言っとらんやろが!?理由をはっきりと言え言っとるんじゃ!耳ないんけ!」

とりあえず出せる声いっぱいで叫び散らす。
このフロアのどこかに居るはずのまどかに聞こえれば、まどかは少しでも安心する。

風俗マニュアル第三条。危機管理の項其の四だ。(ウソ)

「でかい声でぎゃーぎゃー叫ぶな。部屋の入り口は開けておくから。閉めなんだら拘留にはならんやろ?なんもお前を拘留する目的で呼んだんやない!ここでは言えんからそこ入って話そって言ってるんや。そうカリカリすんなぁ」
中年のオヤジ刑事と私に割って入った30代くらいの警官が比較的穏やかな口調で諭した

仕方なく取調室に入ると、先程の中年刑事が隣の部屋を見るように言った。

よく刑事ドラマで、小さな黒いカーテンを引き、隣の部屋にいる人の人相を確認するシーンがある。まさにそのシーンと同じだった。隣からはコチラが見えないようになっているらしい。

「こいつに見覚えあるか?」

窓を覗くとそこにはウチの店では出入り禁止になっている忌まわしき思い出の張本人の顔があった。

こいつは仲間内の風俗店ではブラックリストで載せている人物だ。

「さぁ?あるよなないよな・・・。」

とぼけてみた。

「あるかないかハッキリさせんかい!」

この中年刑事はかなりのカンシャク持ちだ。

「あのですね〜。だから〜、オレが!、ここに!、来てる!、理由を!、先に言えや!!!」

「わかったわかった!理由言ったるから興奮するなって」

また若い警官が割って入った。

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