『かな〜りへこんだ一日したっ!』
2002年12月16日今日は仕事が休みだったので、朝「地獄の黙示録」のDVDを観て、昼前に施設へと行った。
DVD長すぎ。。。
3時間越えてるもんね・・・。
施設に行くと、療養部長さん(福祉施設のえらい人らしい)にいきなり呼ばれ、これから福祉の道へ進むのなら勉強にもなる、と言うことで、一人の痴呆の入所者さんに一日傍に付いて生活の援助をしてみなさいと言われた。言われたというか、経験を積むチャンスを頂いた。
もし、この仕事に興味を持たなかったら、「痴呆」と聞くとどんなイメージを持っていたいただろう?意思疎通が困難で、行動にも理解の出来ないことが多々ある。意味も無く突然叫ぶ。汚物を壁に擦り付ける。
家に同居していた父方の祖母がそうだった。
その頃は痴呆という言葉さえ知らなかった。
「ボケ老人」
そういう認識しかなかった。
家の中で祖母と出会うのが怖くて、とにかく避けて暮らしていた。
「あたしのお金取ったやろ!ドロボー!」
こんなことも言われて、しゃべることさえ怖かった。
家族は祖母をどこかの施設に入れようと言った。
でも、父は
「自分の親を施設に入れるようなことはしたくない。ボケてオレを自分の子供だってことさえ分からなくなっても、オレにとってただ一人の母親なんだ」
きっぱりとそう言って、母の手を借りながら、二人で祖母の面倒を数年間介護し、看続けた。
大学受験を控え、思春期真っ只中の私には理解出来なかった。祖母を他人としか見なかった。
自分にとって痴呆を抱える老人のイメージはこのようなもの。
はっきり言って、療養部長さんの一言は私にとってとても重かった。
痴呆のご老人と向き合うのが怖い。
そのご老人の部屋の前で、療養部長さんは一言
「鈴木さん(仮名)は何でも分かってるのよ。鈴木さんの気持ちを良く聞いて、理解して、同じ気持ちで考えてあげなさい。」
そう言った。
何でも分かっている?
気持ちを聞く?
理解する?
同じ気持ちで考える?
どうすればいい?
意思疎通が取れないのに?
部屋に入ると鈴木さんは、部屋の中をうろうろと徘徊し出した。
「あんた誰や?」
何度かお会いし、話も少しはしたことはあったのだが、
全く覚えてはいなかった。
私はただただ怖くて、部屋の隅の椅子に座り、鈴木さんを見守っていた。見守ると言うよりも、ここに私は存在しない、と気配を消すかのようにただ数時間座っていた。
その間も鈴木さんは何度も私の名前を聞き、
部屋を徘徊していた。
その間、私は何でも分かっている。気持ちを聞く。理解する。同じ気持ちで考える。
療養部長の言葉を何度も頭に浮かべながら、考えていた。
数時間経った頃だったと思うが、鈴木さんの行動に幾つかの共通点があることが分かった。
「何がしたいのですか?」
そう尋ねても、はっきりとした答えは返ってこず、分からなかった。
気持ちを聞く、理解することが出来ない自分に苛立つ。
すると彼女の様子も苛立つ
『鈴木さんは何でも分かっている。』
療養部長さんの一言が響いた。
午後5時までのつもりだったが、結局夕食の介助をし、就寝前の午後8時まで彼女の傍にいた。
食事や、トイレ、他の利用者さんが集まる談話室などに行く意思や、多少の意思は分かるようになった。でも、部屋でうろうろと歩き回る意味。何がしたいんだろうか?という事は結局最後まで分からなかった。
帰る時間になり、
「鈴木さん。今日は一日ヘンな男が一人でおじゃましてすみませんでしたねぇ」
そう言うと、鈴木さんは
「お兄ぃちゃん。もう帰るんかい?今お茶の一つでも入れる所だからゆっくりして行きなさいな。今来たとこでしょがぁ。残念ねぇ。また来んしゃいねぇ〜。今日はありがとねぇ。」
そうおしゃった。
帰る間際にやっと彼女のしたかった事がわかった。
いきなり部屋にやって来た、一人の男にお茶を入れようと、彼女の一日を使ってくれていた。
何でも分かっている。
でも、何かをしようとした瞬間に、何をしたらいいのか分からなくなる。だからまた一から同じことを繰り返す。何度も何度も、ただ部屋にやって来た男にお茶を入れるために部屋を動き回る。
怖いと感じていた自分が情けなかった。
怖いのは私じゃなく、彼女の方だよね。
今思った事が分からなくなり、
目の前の見知らぬ男、家族の名前、自分の居る場所さえ分からなくなるんだからね。
それでも毎日を暗闇の中、一所懸命生きて行かないといけない。
これほど怖い事なんてないよね。
祖母は痴呆になり、3年後にこの世を去った。
家族に看取られ、最後は静かに。
いよいよ死期の迫った病床で、祖母は私に
「ヒロちゃん(本名)。ありがとね」
と言ったのを覚えている。
「何がありがとねじゃ。家族に散々迷惑かけて・・・。」
くらいにしか思っていなかった。
恥ずかしいね。
情けないね。
何でも分かってたんだねぇ。
でもどうしたらいのかが、わかんなかっただけだよねぇ。
自分が家族に迷惑をかけてた事も分かってたんだよねぇ。
でも自分ではどうしようもなかっただけだよねぇ。
分かろうとしないこっちが悪いんだよねぇ。
だってばあちゃんも、鈴木さんも
何でもわかってるんだもんねぇ。
「今日は用事があるから、今度来た時は一緒にお茶入れて、せんべいでも買ってくるから一緒に食べようね」
そう言って彼女の部屋を出た。
次に彼女に会う時、きっと彼女は私の事は覚えていない。
でも、私は昨日よりも今度は少し彼女の事を知っている。
ロッカーで着替えをしている時に、
祖母の思い出、鈴木さんとの一日、
そして自分の情けなさに涙が込み上げた。
あぁ、久しぶりにへこんだ。泣いたなぁ。
次の休みは祖母の墓参りに行こうと思う。
「ありがとう」
そう言ってくれた祖母に
「ありがとう。それから、あの時は分かってあげれなくてごめんなさい」
と言いに。
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長くてすいませんでしたm(__)m
デリヘル人情劇場 『勘違い』その2
は12月15日にUPしました。
秘密メモも長いです。
11分も本日に一部移動してます
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