デリヘル人情劇場 『絆』 その1
2002年12月27日同業である「達也兄」からの電話が鳴ったのは、午前2時頃だったと思う。
達也には当店【Brutus】を始めるにあたり、この世界のノウハウを教えてもらった。いわば、兄貴的な存在である。
この達也は、用事がある時以外に私に電話をしてくることは無い。
だが、電話をしてきた時には必ず何かが起きる。そういう人なのだ。
「神戸の達也やけどな。今から来てくれるか。じゃぁな!」
電話で用件を言うことはまずない。こちらの都合を尋ねるような事もしない。
『絶対命令』
ということだ。
以前にもこの絶対命令で痛い目にあった。
川沿いのラブホテルにすぐ言ってれ!と言われ、部屋に入ると血まみれになった達也兄の店の女が倒れていた。
この人が私に電話をする時には、いつも『何か』が起きるのである。
「麗華、今から達也さんの所に行って来るから店頼むなぁ」
「達也サンでしか〜・・・。麗華達也サン コワイアルょ〜。達也サン仕事 イツモでりさん 麗華 コワイコトなるなるデスょ〜」
麗華は達也をえらく怖がっていた。
店の雰囲気もウチとは正反対で、誰かが常に笑い声を上げているなんてコトはない。
事務所もいつも『静寂』といった雰囲気。
怖いからと言って、行かないワケには当然ならない。
「じゃぁミクお兄ちゃんお出かけするから、ママ帰って来るまで麗華と二人で遊んでんだぞ!また来週なぁ〜」
この頃、当店は週2回託児所と化していた。
ミサキというウチの女性が離婚をし、
彼女の腕一本で子供を育てなくてはならなくなった。
週二回ウチにミクという子供を預けて仕事に向かうようになってそろそろ2ヶ月が経つ。
まだ4歳の子供を電話の鳴り響く店に預かるのはどうかと悩んだのだが、
麗華やシホのような、親の愛情に恵まれず、施設で育った彼女たちが、
ミサキの仕事が終わるまでここにいさせてあげようと言い、
その言葉に根負けした。
「アイ。またらいしゅうまでさよならです。」
4歳にしてはかなりしっかりとした女の子。
母親にその辺りは全く似ていない。
小雨の降る中、憂鬱な気分で神戸に向かい車を走らせるのであった。
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