デリヘル人情劇場 『絆』 その2
2002年12月28日神戸の達也兄の事務所に着く頃には雨は本降りになっていた。
私の生まれた街である神戸は雨が良く似合う、そう思う。
【Brutus】はマンションの一室を間借りし事務所にしているのとは違い、ここはテナントビルの一室を事務所としているので、殺風景な感じがする。そして達也の冷静なしゃべり口調に事務所は更に静かで、どことなしに冷たい雰囲気を感じるのだった。
「おう 来たか。メシ行くぞ」
事務所には数名の風俗嬢が待機しており、聞かれたくない話でもあるのだろうか?外に誘い出された。
震災後、めっきり静かになってしまった神戸の街でも、更に静かな港の辺りへと車は進む。
このコワモテの達也に港へと連れて行かれると、なんだか自分が悪いことし、神戸港へ沈めに行かれてるのでは?などと思ってしまうのであった。
行き先は一軒の洋食屋。
この時間でも開いてる店はこの辺りにはここしかない。
店に入り、いったいどんな話があるのだろうか としばし緊張気味の私とは逆に、達也は酒を飲みながらごく普通の世間話に花を咲かせている。
「大阪の景気はどないや?こっちはまぁ食うに不自由はせん程度にやっては行けてるけどなぁ、福原※1)はめっきり閑古鳥や言うしのぉ・・。うちらみたいな小銭で遊べる店しか客もおらんみたやのぉ」
「うちもまぁお陰様でなんとか軌道には乗ってますが、大阪は取り締まりが厳しくなってますからねぇ、広告媒体使ってない店は厳しいみたいです」
ごく普通の世間話は2時間程続き、ただメシを食うだけに呼ばれた感が漂い、ほっとして事務所へと帰路に着いた。
今日は初めて穏やかな達也兄とのひと時だった・・・。
まぁ今まで散々無理難題を押し付けてきた彼なりのお礼であろう。
そう思い、
「まぁまた何かあったらいつでも電話下さい。今日はごちそう様した!」
お礼を言って事務所を出ようとした時、達也が口を開く
「おい!さとみ!ちょっとこっち来い!」
時間の空いた女の子が待機室に使っている奥の部屋から、一人の女性を呼び付けた
「お前なぁ、今日からそこに居るヒロの大阪の店で働けゃ 分かったか?すぐ荷物まとめて用意しろ」
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※1)【福原】神戸の新開地という所にある関西屈指のソープ街。高級ソープが並んでいた一昔と違い、現在は格安ソープである大衆店やヘルスなどの店が増えている。
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