助手席の彼女の印象は悪くはなかった。

目鼻立ちがしっかりしており、かわいいタイプよりも美人なタイプ。
どこの店で働いたとしても、ある程度のお客を掴めるだろう。
そんな女性をなぜわざわざウチで働かせるのか?
達也兄の店の売り上げが落ちるのは目に見えている。

「簡単にプロフィール聞きたいんだけどね、今何歳?それと、これはどの子にも聞くことだけど、今借金ってあるの?あるならその金額も教えてもらいたいんだけどね」

「えっと、年は24です。借金はあります。金額は・・・30万くらいです。」

いきなりウチで働くように言われた割には、しっかりと受け答えするところから見て、彼女に動揺はないようだった。
事前に聞かされていたからこそ、動揺はしていないのか・・・。
むしろこちらの方がまだ動揺していた。

借金があるにせよ、30万程度ならばウチではそれを借金なんて言わない。
きちんと社会で働いていれば十分に返済できる金額であるからだ。
元々もっと大きな金額を抱えていたならば、残りわずかな返済を前に何故ウチで働かねばならないのかが疑問に残る。
仮に達也兄の店で問題を起こしてウチに来るのならば、そんな問題を起こした風俗嬢をなぜ達也兄がウチによこしたのかが分からない。
問題を起こした人間ならばとっくにクビにしているハズ。
そんな人間をよこし、達也兄の信頼がなくなるような事をするとは思えない。

考えられるのはなんだろう?スパイ?怨恨による爆弾?

それも考えられないが、とりあえず店の資料のある事務所に泊める訳にはいかない。そう思った。

ひとしきり話が終わると、さとみは雨で濡れた何も見えない窓からじっと外を見ていた。
その横顔がやけに物思いにふけているのが気になった。

事務所に戻ったのはもう、午前6時近かった。

営業時間は終わりもう皆帰っているだろうと思っていた事務所は、まだ数名残っていた。

「ただいまぁ〜。麗華ぁ!この子今日からウチで働く子だけなぁ、家ないんだゎ。寮は満室だから、しばらく近くのビジネスホテルに泊まってもらうから、ちょっとその準備だけしてくれる?」


「・・・」


返事がない。

部屋の奥にある、事務所に使っていたリビングのドアを開けると、鎌田のおやじと、勘蔵さん、麗華、あかね、シホと言う、当店の中心人物がなにやら話し込んでいた。鎌田のおやじとは、麗華と勘蔵さんの身元引受人であり、ウチに2人を連れてきた人物である。


「おぅ!ヒロ坊!今帰りか?ご苦労さんやったの!ちょっとじゃましとるでの!」

こんな時間にいるは珍しいこの鎌田のおやじは、話の語尾に『の』を付けて話すので、店のみんなからは『ののじい』とよばれていた。
この”ののじい”は元はウチの常連であったのだが、ただのエロおやじではなく、元刑事だった。今は探偵、調査会社を開いている。

そして、この部屋でいつもと違うことがもう1点

午前3時であがっているはずの風俗嬢みさきの娘、『ミク』がテレビの前でちょこんと座っていた。


「あれ?ミクぅ!なんでまだ居るんだ?眠くないのかぁ?ママまだお仕事帰ってきてないのか?」

どんなに忙しくても、午前3時には仕事をあがらせてほしいと言っていたみさきが残業をしているのに驚いた。
するといかにもバツが悪い顔で麗華がミクに聞こえないように私に言う。


「アノですネ・・でりサン・・・。みさきチャン オキャクサンとイッショに消えまシタデスヨ・・・。」



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