あかねが泣きながら土下座をしたのには正直驚きはしたのだが、
私の腹の虫は納まらない

例えどんな理由があったにせよ、
客との駆け落ちはご法度であり、何よりもわが子を置き去りにして失踪するなど言語道断であった。

風俗で働く者はみなワケアリである。
しかし、ぶち当たった困難に逃げ出すよりも、たとえ『風俗』というレッテルを貼られてでも自分に真正面から向き合い、がんばってまた、日の当たる社会に戻ってゆければ『風俗』も経験となり自分のコヤシとなるものだと信じている。
そうやって人間は一つずつ大きくなっていくものなんだ・・・。

「親分サン。麗華オモウデスヨ、みさきチャン悪い人チガウデス。
事件てコト考えラレマセンか?」

「事件!?まさか誘拐ってことか?」

「ハイです。」

部屋の空気が一気に凍りつく

「でもな麗華、金に困って風俗で働くヤツを誘拐して何になる?
誘拐ってのは大概が金目当てだぞ・・。
一緒に消えた客はうちの他の姫が相手したことあんのか?
顔見たことあるやついないか?」

「みさきチャンといなくなたオキャク タダて言うオキャクサンネ
最初からずっとみさきチャンオンリーでし。何してる人かワカラナイネ」

デリヘルの盲点は客の顔を知る人間が少ないということだ。
自宅は分かっていたとしても、その顔を見ることは稀であり、
事件となるとあまりに情報が不足する。

とりあえずみさきと多田という客が入ったラブホテルに行くことにした。

ホテルは店から歩いて1分もかからないすぐ近くだった。
シホやあかねといった予約で一日の予定が埋まってしまうもの達が、移動で時間をロスするのを防ぐために、客にホテルまで来てもらい、そこに女性が向かうことで仕事の効率を上げる。
今回のことはそのホテルで起こった。

みさきがホテルに多田と言う常連の客を呼び、事務所からすぐ近くのいつも【BRUTUS】が使っているホテルなので一人で歩いて行くといい、ドライバーを付けずに行った。

受付をした麗華も、幾度となく利用してくれている常連のところへ行くということで、怪しむことはしなかった。
もし私が受付をしていても、同じくみさきを一人でホテルへ向かわしたに違いない。
誰も責めることは出来ない。。。

「おばちゃん。今日の午前2時くらいに503号室にうちの痩せ型で髪の長い女が入って行ったでしょ?何時くらいにチェックアウトしてる?
なんか変わったことなかったかなぁ・・・・」

毎日数部屋を優先的に使わしてもらっているホテルなので、フロントのおばちゃんもうちの女性の顔は何人か知ってる。

「あぁ!503の髪の長い子ね インして30分くらいしてタクシー呼んでねぇ、
二人で出て行ったよ!麗華ちゃんにも言ったんだけど、お客が気分悪くなったから送って行くって言って出て行ったんだゎぁ〜。
でねぇ、その子がもしアンタがここに来たらこれ渡してって封筒預かってんのよ。他の人には言わないでって言われたから麗華ちゃんには言ってないけどね〜
この封筒よ。はい」


汚い茶封筒の中に、一枚の手紙と数万円が入っていた。

でりさんへ。

勝手な真似 本当にごめんなさい。

こうするしかありませんでした

必ずミカを迎えに帰ります。

今は理由も言えません

許して下さい。

探さないで下さい 必ず戻ります。

ミカを宜しくお願いします。  (原文そのまま)

どうやら誘拐ではないようだった・・・。


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