デリヘル人情劇場 『絆』 その7
2003年2月10日「ミクぅ。おかあさんなぁ、だいじなお仕事で“シュッチョウ”って所にいってもらったんだょ。ミクのおかあさんにしか出来ない大切なおしごとなんだぁ。しばらくここで、おれとかレイカちゃんとお留守ばんできるか?」
「ママはだいじなおしごと?」
「そう。ミクのママにしかオヤブンさんが頼めなかった大切なおしごとなんだ。
ミクここでみんなとお留守ばんできるな?」
「あい。ミクここでオヤブンさんとお留守ばんしますぅ
ミクをよろしくです」
四歳の子供がどこまでの理解力があるのかは分からないのだが、ミクは駄々を捏ねる事もなく、素直に我々の言うことを聞き入れた。
家庭内暴力で離婚したミクの実の父親に連絡を入れることは勿論できず、元刑事でもある鎌田氏、通称ののじいや、店の者達と考えた末ここで暫らくミクの面倒を見ることにした。
失踪したみさきが何時ここに帰ってくるかという保証は一切ない。
もしかすると二度と戻らないかもしれない
その可能性の方が高いかもしれない。
何の罪も無い四歳の子供に、大きな試練が迫っている。
そんな気がしてやまない。
このころデリバリーヘルス【BRUTUS】の事務所には4人が生活をしていた。
ム所帰りの勘蔵さん 受付嬢兼、デリヘル嬢の麗華、そして当店NO1風俗嬢であるシホ、最後に私の4人である。
そこにミクが加わるということで、部屋の移動を行った。
いままで各人に一部屋ずつあったのを勘蔵さんと私が同じ部屋にして、
空いた一部屋をミクが日中遊べる部屋に変えた。
この部屋なら事務所に使っている部屋から一番離れていて、電話の鳴る音もそれほど気にならない。
そしてドライバーの一人で、機械マニアの男がそのミクの部屋に監視カメラを取り付けてくれた。
これでモニターを通してミクの様子が24時間体制で見ることができる。
午後3時頃、外出していたシホと当店のクレーム処理班のあかねが事務所に戻ってきた。
何やら荷物を沢山抱えてのご帰還であった。
「ミクちゃんのおもちゃ買って来ちゃった!イマドキの子供のおもちゃって高いのねぇ!」
日々様々なストレスと戦いながら生きている店の従業員にとって、人見知りもないミクは彼女達の癒しのような存在であった。
「ミクちゃん!これお姉ちゃん達からのプレゼント!ママがおしごとから帰ってくるまで私達がミクちゃんのお友達であってママだからね♪なんでも困ったことがあったら言うんだょ」
「あい。ありがとうございます
ミクこれだいじにしますぅ。」
ペコリとお辞儀をするミクの姿を見て、彼女達はご満悦のようであった。
この先ミクがどうなるのかなんて誰もわからない
世間的に闇のイメージは拭い切れない『風俗』という業界で生きる我々ではあったのだが、
人を思いやる気持ち、人の痛み、苦しみを体の芯から共有し、
ミクという幼い子供を守ってやろうという気持ちは、どんな環境、世界で生きる人々となんら変わらない。
むしろデリバリーヘルス【BRUTUS】で生きる彼女達の中にはそんな人々以上に純真で綺麗な心を持つ者が多かった・・・。
そう思っている
つづく
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