新しく当店【BRUTUS】に加入したさとみはデリヘル経験者であるために、
ある程度の説明だけをし、早速当店の常連の所へといってもらうことにした。

私が風俗のノウハウを教わった神戸の店に在籍していたさとみに、今更あれこれと言うこともないのである。

彼女が仕事に行ってる間に、もう一人乗せていたあかねとあれこれと話をした。
あかねは当店を立ち上げる時からの唯一残っている人間であり、
なんだかんだと言って、私はあかねを一番信頼していた。

「アイツは今頃どこに居るんだろうな?」

「ほんとに・・・。」

「オレにはどうしても分からないコトがあんだょ。
ウチからだけでなく、この世界から逃げ出して行くヤツはいくらでも居るわけで、そのこと自身はなんら不思議でもないわけだよ。
その人間は逃げられた店側が追うのか否かを判断さえすればそれでいい話。
でもな、今回は何か違うんだよな・・・。」

「子供を残して逃げた・・・」

「そう。それに手紙も残して逃げた。
逃げるってことはそもそもウチでは居る事が出来なくなった何かがあって逃げるワケなのに、アイツはある意味人質ともいえるわが子をウチに残して逃げてんだよなぁ・・・。
元から帰ってくるつもりならば、オレに相談の一つでもあって話し合ってからどこぞに行けばこんな大袈裟な話にならずに済んでるんだょ・・・。」

「逃げる理由がわからない・・・?」

「そういう事。
今回の行動の意図がさっぱり分からないんだょ・・・。」

「という事は、ミクちゃんをここに残しておきたかった?
ミクちゃんをここに残しておく必要があったってこと?」

「あかねも最近鋭くなってきたなぁ!
つまりはそういう事であるしか考えられないんだょ。
わざわざアイツは仕事の日にウチにミクを預けて客と逃げる必要はないんだよ。
休みの日に子供と一緒にトンズラすればそれで済む話なのに、何でわざわざミクをウチに置いて逃げてるのかが問題なんだょ」

「私達ちょっと刑事ドラマっぽい雰囲気?」

「ははは。こんど風俗刑事ってタイトルのイメージデリヘルやるか・・・。
でもな、そう考えるのが一番答えに近い気がしてきてなぁ、
なんでウチとの接点を切らずに逃げてるのかが分かれば、ミクを置いて逃げた訳が分かって、アイツ自身が逃げなくてはならなかったのかが分かると思うんだ・・・。」

そうこう話してるうちにさとみが仕事から戻って来た。
次の仕事場に向かってる間、さとみは私が神戸から連れて来ていた時と同じように、車窓からただぼんやりと外を見つめているだけだった。

あかねがワザと明るく振舞った所で、彼女の表情が変わることはない。

顔立ちの悪くない彼女がこのように何か物思いに耽る表情をしていると、
風俗の世界において致命的とも言えるマイナスのイメージになるのではないかと心配してしまう。

このさとみが何故ウチに来る羽目になったのかもまた、謎のままであった。



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