いつものごとく、すこぶる滑りの悪い引き戸引き、ノレンをくぐる。

「いらっっしゃぁぁぁぁ!」

かれこれもう40年近くこの店、

「マルトミ食堂」の看板娘を名乗るおかみさんの声

「今日のおすすめ何?」

「ホタルイカ定食だよ」

「ホタルイカ定食???あんまり他では聞かない定食だね?」

「何言ってんだよ!ホタルイカの漁期は一年のうち数か月
今年の初物なんだよぉ!ホタルイカはビタミンAが豊富に含まれていて、風邪の予防にもなる体にいい魚なんだぁ!あんたもホタルイカ食って新しい仕事でピカッっと光る存在になるんだよ!」

結構うまいこと言うおかみでなのである。


「じゃぁホタルイカ定食で」

「あいよ〜!ホタルワン!」

「・・・」

相変わらず厨房からの返事は無い。

いつもの通り、奥から2番目のテーブルに腰を掛け、茶渋で濁った湯のみにセルフサービスのお茶を注ぎ入れる。そしてこれまたいつもの通り、NHKに合わせてあるチャンネルを民放に変える。

しばらくして、今日のおすすめ『ホタルイカ定食』が運ばれてくる

銀しゃり、豚汁、里芋と鶏肉の味噌煮、そしてホタルイカてんこ盛りと酢味噌が付く

ここの旦那の作る定食の味は一級品。
いかにも頑固一徹といった旦那の作るメシは、
ここへやって来る誰もがうなずく味なのだ

「おめぇホタルイカの目もちゃんと食え!」

暖簾をしまい終えた旦那が言う。

「だってホタルイカの目って堅くて気持ち悪いモン・・。」

「皿にホタルイカの目がごっそり残ってる方が気持ち悪いんだよ!片付ける身にもなれってんだ・・・。」

そういう問題ではないと思うぞマルトミの旦那ぁ。。。

半ば喧嘩腰で強引にホタルイカの目を食わされながらも、この雰囲気が大好きであったりするのである。



「ごちそうさま。おばちゃんいくら?」

「あぃよ!ホタル定食400万円!」


やはりくだらなすぎるギャグは絶対に言う看板娘に愛想笑をし、
ドウ考えても400円は安すぎると今度は心から微笑むのであった。

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