デリヘル人情劇場 『絆』 その10
2003年2月23日神戸の達也の店からやって来たさとみは決して顔立ちの悪い女性ではなかった。
しかし、いつも何か物思いに更けている感じがしてならない。
生まれつきの雰囲気というよりも、何か自身に問題を抱えている・・・
そんな様子に見えていた。
「麗華、さとみの付いたお客にフォローの電話入れて、さとみの仕事の内容を聞き出しておいてくれないか?」
当店に初めてやってきた者は、まず最初に当店の常連についてもらう。
もちろんそれは、客の顔の見えないデリヘルという風俗において、一見客相手にいきなり付かせ『ハズレ』客に当たってしまい、この世界での寿命を短くさせたくはないという思いがある。
そしてもう一つ。
店側と意思疎通の利く『常連客』に付いてもらい、当店なじみの客から女の子の仕事内容、要するに接客態度やサービスの質を聞き出したいからである。
「アイヨー。マカセテくんなせぇ〜デシ!麗華コンニャノ得意デやんす〜ヨ!」
少々日本語になっていないのは麗華の愛嬌である。
当店【BRUTUS】はめっきり我が子を残して失踪したみさとの話題で持ち切りであったのだが、私の中ではこの「さとみ」のことも気になっていた。
なぜ理由も告げずにいきなりウチに行くように言われたのか?
達也の店で何か大きな問題を起こしたのならば、兄弟店のような当店になぜさとみを押し付けたのか?
また問題を起こす可能性がある女ならば、達也兄の店に泥を塗るような真似をする可能性のある女をウチに連れてゆくワケはない。
当店で働く風俗嬢は一日に5人から6人のお客の相手をし、日払いで平均3万弱の現金を手にして帰ってゆく。
この金額が大きいか小さいかは本人の事情によって異なる
さとみの当店での初日を終え、事務所に帰るり麗華からさとみがついた客の話を聞く
「ン〜〜デスネぇ、お客サン達ミナ同じヨなコト言うデスヨ・・。」
「同じこと?」
「ハイデシ。3番目に付いた天王寺のナカニシさん、言ってたアルネェ。
サトミチャンおニンギョウサンみたいでカワイけど、ホントにおニンギョウさんだて言ってたデスゥ」
「本当にお人形?」
「何シテモ、おニンギョウさんミタイ メが遠くミテタて言ってたデシ・・」
天王寺区に住む仲西という当店の常連は、古くからの付き合いであり新しい女の子が入ると必ず行かせる客である。
彼は客の中でも優しいタイプの客であり、的確に女の子を評価してくれる客でもある。
「客に『人形』と言われたら致命傷だな。
俺らの前でだけアノ表情なのかと思ったら、客の前でもか・・・。
アイツは全くの新人じゃないんだからなぁ、問題だぞ」
「ソウデヤンシねぇ・・・。困ったデシ」
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