「親分さん、アッシはそろそろ限界だって思うんですがぁね、
これ以上待ってももう帰って来やしねぇ気がしてなんねぇ。
出過ぎた真似ってぇのは承知してやす、ですがね、勘蔵は今夜あえて言わせていただきヤスゼ」

4歳のミクを残したままその母親であり当店【BURUTUS】で働いていたミサキが失踪をして3ヶ月が経とうとしていた。

近頃は仕事が終わると、勘蔵さんと居酒屋『きゅうり夫人』で呑むことが多く、
話す内容はもっぱらこの事であった。

「帰ってこないと言うのは、ミサキがミクを捨てた・・、そう言うコトですか?
勘蔵さんはム所で過ごした長い年月の間、家族のことを思わなかったコトってあるんですか?」

「アッシは塀の中で一度だって家族のこたぁ忘れたことはアリヤセン。
でもねぇ親分さん、3ヶ月もの期間何の音沙汰もない そんな状況でミクをこのままウチで預かり続けるってのはそろそろ限界じゃねぇか・・・って思うワケデシ。」

「ミクちゃん最近ネゴトでママってナイテル、レイカ心イタイデスョー」

同席していた麗華もまた、ミクのことが気にかかって仕方が無いようだった。

「ミクをウチで面倒見ようって言ったのは麗華達じゃなかったか?」

「こんなに長いアイダミサキちゃんカエッテコナイ思わなカタデス。
レイカのヤスウケアイでしたョ。レイカ今頃ハンセイチュウでし・・・。」

多少の日本語の間違いは中国人と日本人のハーフである麗華の愛嬌である。

「じゃぁ勘蔵さん。何故ミサキはミクを放ったらかしで3ヶ月も音沙汰がないんでしょうか?ミサキと一緒に逃げたであろう男も見つからない、
一体何があったって言うんでしょうか?」

毎度毎度、話は振り出しに戻る。

「アッシは親分サンに命を救ってもらったようなモンでし。
姐さんやここで働く皆サンが居るからこそ何とかシャバで生きて行けてる身分。言ってはナラネェ事ってのはワキマエておりヤス・・・」

ゴールの無いスゴロクに最後の升目を加えたのは勘蔵さんの一言であった。

「勘蔵さんもそう思いますか・・・・。」

「シャバってレイカ知らないコトバアルネェ・・・。」

麗華には私と勘蔵さんの会話は何かの暗号にしか聞こえない様子であった。


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