「親分さん。お嬢さんは一体どこまで行くおつもりでヤしょうか?」

彼女がタクシーに乗り込みかれこれ2時間が経つ
彼女を乗せたタクシーは阪神高速から西名阪道を突き進んでいた。

「さぁ・・・。この道は奈良の山間部を通って三重、名古屋方面・・・。
アイツの実家は岡山。
もう目的は一つしかないんじゃないですか?」

「やっぱりミサキの姐さんの所でャしょうか・・・」

「風邪気味でこんなところまで病院に通ってるということだけはなさそうですよ。もし病院だったら即効頭ハタキに行きます」

我々の車は彼女を乗せたタクシーから一定の距離を保ち追い続けた。

「勘蔵さん、ガソリンがヤバイっす・・・。」

本当にどこまで行く気なのか、ガソリンがみるみる無くなってゆく

「アッシらがガソリン無いのなら、あのタクシーも無いんじゃネーですかィ?
タクシーを追い越してスタンド入りャしょう!
もし先に行かれたらアッシが違うタクシーで追いかけャスゼ」

この西名阪道は一般国道ではあるが信号が一つもない。
スタンドは幾つかあるのだが、ヤツの乗ったタクシーを追い越し距離を稼いでもガソリンを入れている間に確実に追い抜かれるだろう・・・。

「仕方ないですね・・・。
こんな道でタクシーを拾えるか分かりませんが、そういう感じで行くしかないですね・・・。」

一気にアクセルを踏み込み、彼女の乗ったタクシーを追い越し先を急いだ。

「姐さんの車が途中で曲がってたら終わりでヤスね・・。」

こうなったらヤケクソである。
見失ったら見失ったで仕方が無い。

しばらく行くと前方に空車のランプを付けたタクシーを見つけた。
ラッキーであった。日頃の行いがいいからである。

追い越し車線からそのタクシーに追いつくと勘蔵さんは窓を開けタクシーの運転手に怒鳴りつける

「ワシがそこに乗るから停めヤガレ!
路肩に停めろッテンダァ!!聞こえネーのかコラぁぁぁああ!」

タクシーと平行に走りながら窓から顔を突き出し怒鳴り上げる

私がタクシーの運転手ならば絶対に停まりたくない。。。

さらにスピードを上げタクシーの前に車を斜線変更するとタクシーはハザードランプを付け止る意思表示をした。

「勘蔵さん、アイツの乗ったタクシー覚えてますよね?
そのタクシーを確認したら運転手に言って後をつけて下さい!
私はガソリン入れてすぐ追いかけますのでまた連絡します」

勘蔵さんは車が止り切らないうちにドアを開け、飛び出して行った。

私はもう一度アクセルを踏み込み、先を急ぐ。


「親分さん!お嬢さんの乗った車確認しヤシタゼ!アッシは後を尾行(つけ)ヤすから安心してガソリン入れてクダセェ!」

しばらくして勘蔵さんから連絡があった。
これでなんとかなりそうである。

角刈りの初老が『オヤブンサン』だの『尾行(つけ)る』だのと後ろで叫んでいるタクシーの運転手は一体どんな心境なのだろうか・・・。

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