多田という男はミサキのような風俗嬢や『ワケアリ』の弱い立場の女性に言い寄り、偽の借金の保証人などにさせて金を吸い上げる詐欺行為を働いていた

ミサキは薄々気が付いていたが、誰かに縋(すが)りたいという気持ちが強く働いてしまったのだろう。

ここに連れて来られ、暫らくしてウチのあかねと連絡を取っていたことを知った男は、ミサキの目の前で携帯を取り上げ、真っ二つに折り壊したと言う。
全ての電話番号を携帯のメモリーに入れていたミサキは誰とも連絡が取れなくなった。
ミサキはウチの店に帰ろうとも思ったらしいが、自宅やウチの店を知る多田が追いかけてくるかもしれないという気持ちがそうさせなかった。
それにウチを逃げて出て来ている立場であり、あかねと連絡が出来なくなり、店が自分のことをどう思っているのか分からなくなってしまったミサキは、店にはもう戻れないと思ったと言う。

その後ミサキと私は色々な話をし、夜明けを迎えた。

「そろそろお時間だろ?帰るぞ。
せんだみつおに似てる『遣リ手』のおばちゃんに、お客様お帰りですって言ってくれ。」

「・・・・あの。
私はどうやってここを出ればいいんですか?」

「どうやってって、バイバイって手を振って帰ればいいだろが」

「そうやってまた私をいじめる・・・。」

「ハハハ。まぁなんとかなるだろ?
後ろ付いて来たらいいって」

特に持って帰る荷物もないミサキは着替えを済ませ、簡単な身支度をして私の後を付いて階段を下って行く。

「おばちゃん。悪いけどね、この子連れて帰るゎ」

「え?あんた何言ってんのぉ?冗談よしてょ!ハハハ!ありがとね、又来てょ!」

「冗談じゃないんだょねハハハ!こいつウチの店の女なんだゎ・・・。

引き抜きかけたのは何処のどいつじゃ!!」

「あんた正気で言ってるのかぃ!?この娘はウチで預かってる子だよ!
あんたどこの者ね?ちょっと待ってな!」

「預かってるだと?ここの島は何か?もしかして人身売買でもやってんのか!?」

「そんな事あるハズないでしょうが!!いいからちょっと待てなって!!」

「待てへんのじゃ!あんたが今から連絡をしようとしてるオトコはひょっとしたらもうワッパしてるかもしれへんぞ?あんたも檻の中行きたいか?」

「あんた誰ね!?警察!?」

「オレは警視庁の鎌田ってモンだ」

「・・・・。ウソでしょ!?」

「それは無いけどな、おばちゃん。
この子を連れてきた男が警察にマークされてんのは本当なんだ。
あんたとそのオトコにどんな繋がりがあるかは知らないけどな、
この子はそのオトコに騙されてココに来てるんだゎ、」

「あたしゃそんなオトコに連絡しようとした訳じゃないょ!
一切そんなオトコとは関わり無いね!」

「そうか。じゃぁ分かった。
オバチャンの店で、もし女の子が引き抜きにあってバレたら幾ら業者に請求すんの?」

「500万だよ!」

「でっかく出るなぁ〜。
分かった、ここに現金で50万あるからこれをオバチャンのポケットに入れとけよ。
ここは自由に島を離れることできんだろ?
コイツが勝手に逃げ出したってことにすればいい。
誰とも関わりが無いハズでも、もし誰かが来たらそう言えば済む話だろ?
コイツがウチで働いてたことは紛れも無い事実なんだよ、
オレは話を円滑に纏めたいから100歩も200歩も譲ってんだよ。
もしもウチの店で引き抜きがあったら業者に200万の請求をしてんだ、
どうする?まだ話こじれさす?」

「わかったよ、とっとと出て行っておくれ!
もうここには近づくんじゃないよ!」

話は片付いた。




「んじゃミサキ、帰るか!」

ミサキはオバチャンにお辞儀をして店を後にした。


「でりさん。ありがとうございました。
・・・・私、まだやり直せますか?」

「それは本人次第だろ?
とりあえず ”普通” の風俗嬢からやり直すんだな!ハハハ!」


少し春めいてきた或る日の出来事は、無事解決を迎えたのであった。


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