「要するにオマエ何が言いたいんや!?」

さとみを連れて神戸の達也兄貴の事務所に訪れた。
相変わらずの無愛想な口調は未だ健在であった。
麗華はこの達也が大の苦手であったのだが、
麗華に負けず劣らず、私もこの達也が苦手である。

「要するに・・・ですか?」

「おぅ、そうじゃ!さとみを連れてノコノコとこウチに何の用事がって来とるんじゃちゅう事や!」

ドスの利いた達也の声が部屋に響く。

「要するには、さとみをお返ししに来ました」

「さとみを返しに来た!?
オレが預かってくれと頼んだ女をいらん言いに来たちゅうことか・・・」

私の顔を正面から見据えてそう言い放つ達也の言葉、表情が恐ろしい。

「ただ単に理由もなく兄(あに)さんから預かった女をいらないと言いに来たんではないんです。
私もそれなりに無い頭を振り絞って考えた挙句のことです。」

「オマエがどう考えたかなんてオレは聞いて無い、
オマエはオレに恥かかせてるって事分かってンやろのぉ!」

さとみはこの部屋に入ってから下を向きっぱなしである。

「恥をかかせる気なんてありません。
でははっきりと言わせてもらいます。

さとみをこの3ヶ月ウチで見てきましたが、客ウケ、接客態度、売り上げ、指名、どれをとってもウチの最低レベルです。
送迎の車の中ではただひたすら窓から外をボ〜ッと見てるだけ、これが客と顔を合わせてからも同じです。
仕事内容も客からは『人形』とまで言われる始末です。
こんなヤツはハッキリ言ってウチの信用を損ないます。」

達也の顔がみるみる赤くなってゆく。

「さとみコラァ!てめぇオレの顔にえらい泥塗ってくれよったのぉ!!」

さとみが飛び跳ねる様にビクッと体をふるわせた。

「私も兄貴の店でこの風俗のノウハウを教えて頂いた人間です。
達也さんがそんな女をウチで働くように言うような人間じゃないことは私が一番良く知ってます。」

さとみに向けられた怒りを遮る様に少し強い口調で言う。

「おい、オマエ何が言いたいんじゃ!?」

「さとみが達也さんの店で働いていた時にはそんな事はなかったって分ってんです。でもウチではさとみは変わってしまった。
それは私の責任です。
達也さん。なぜさとみがウチではそんな仕事しか出来なかったかは達也さん分るんじゃないですか?」

少しだけ達也の顔色が変わった。

「んなモンオレが知る訳ないやろょ!」

「そうですか?じゃぁお尋ねしますけど、なぜさとみをウチで働くように言ったんですか?
いつも達也さんは私に『理由』をいってくれませんよね?
なぜさとみがウチに来る羽目になったのか聞かせて下さい。」

「オマエに言う筋合いがあんのか!?
オマエはオレの言うことを聞いてりゃいいんじゃねぇのか!?」

椅子から立ち上がらんとする達也が恐ろしい。
心臓が口から出そうなのである。。。

「それでは私が言いましょうか?
さとみは達也兄の店に帰りたかったんじゃないですか?
店にと言うよりも、達也さんの下に・・・。
私らの商売、店内や客との色恋は一番のご法度ですよね、
ましてや店を預かる者と、その下で働く従業員の恋愛なんて決してしてはいけない事。
店で働く者に対しての ”しめし” が付きませんから。
しかしいくら駄目でも始まってしまったものは止められない。
それで店の他の者に知られないようにウチにさとみを行かせた。
違いますか?」

「オマエ何を根拠にそんな事言ってんだ?」

達也の勢いが弱まっている。
やっとここ3ヶ月考えていた事への確信を得た。

「ウチの麗華がですね、ポツッと言ったんですよ、
やる気もなく外をずっと眺めるさとみのことを
『まるで好きなヒトいるみたいですね』
って、男の自分にはいつまで経っても解らなかった事ですよ。
その言葉を聞いて、やっと分かりました。
普段滅多な事が無い限り電話なんてしてこないあなたが週に何度か、
しかも私の携帯に直接掛けて来ましたし、なぜか私がさとみを乗せている時が多かったし・・・。
それに、達也さんと私が話している時だけさとみは聞き耳を立てる様に私に神経を集中させるんですよ。
最初は達也さんが怖くてびびってるのかと思ってましたけど、麗華の言葉で違うんだって確信しましたよ。

そして今、この場でさらに確信を高めました。」

「・・・。」

達也は黙ってしまった。

「さとみの負債はもう完済しました。
この先まだ風俗で働くのかは、もう私の知ることではありません。
ただ、この仕事の中で生まれた恋愛なら、さとみとしては達也さんの傍で働きたいと思うんじゃないですか?兄貴は男前ですからね。ハハハ
他の女に取られないか心配で仕方ないでしょ。

事務でも電話受けでも仕事はありますよ、さとみの為にも達也さんの近くにいさせてやってください。
私ではさとみに何もしてやれません。
お願いします。」


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