デリヘル人情劇場 『放免桜』 ♯03
2003年5月18日「まどかちゃん!お疲れ様!」
店に入ると【BRUTUS】の『仲間達』が花束を抱えまどかを出迎えていた。
このときすでにまどかは「半泣き」である。
接客のプロ集団である皆ではあるが、まどかへの労いの言葉には何一つ濁りの無い「こころ」からの祝福であった。
そう思う。
勘蔵さんの横の席に腰を下ろすと、既に「出来上がった」勘蔵さんが顔を紅く染め、ニコニコと孫達を見つめるような笑顔でグラスに口を運んでいた。
勘蔵さんにも我々くらいの孫がいても不思議ではない歳、
勘蔵さんにはどのような家族があるのだろうか?
家族自体があるのだろうか?
ふとそんなことを考えずにはいられないのだが、
踏み込んではいけないこともある。
踏み込まないのがこの世界の暗黙の了解であった。
宴はどのくらい続いたのだろうか?
私も久しぶりに酒に酔った。
うれしかった。
まどかが最後にどんな言葉を言ったのかさえ記憶にない。
泣いて、笑った。
店を出て皆は2次会へと行くようだった。
私と勘蔵さんはここで皆とは別れ、
行きつけの「きゅうり婦人」で二人で呑むことにした。
「オヤブンしゃん!アシタ麗華ハ、マドカチャンと朝カラですネお買イモノへ行くですカラシテ、朝ノ部はお休みデスカラ、一人でチャント起きてくださいアルヨ!」
呂律の回らない麗華のいつもにまして「変」な日本語だけが頭にインプットされた。
「あいょ〜!任せとけって!ゆっくりしてきな!」
その麗華の後ろで丁寧に頭を下げるまどかに、手を挙げて応えた。
私とまどかの最期の瞬間だった。
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