デリヘル人情劇場 『放免桜』 ♯02
2003年5月19日まどかにとって当店【Brutus】での最後の出勤が終わった。
今までお世話になった方々への挨拶をしに一緒に回り、心に残った客へのお礼の電話をいれる。
いつからこんなにいい笑顔を作れるようになったのか?
そんな事を考えていた私であったのだが、その考えは間違えであると気づく。
いい笑顔が作れるのではない。
私の知らない本来のまどかが戻ったにすぎないのだ。
「色々とお世話になり、本当にありがとうございました。」
まどかのそんな言葉がむず痒い。
特にまどかに何かをした訳ではない。
確かに入店当初のまどかには手を焼いたが、何かをやらかして とかではなく、あまりに暗すぎてどうしたものか・・・。などと考えを廻らしたくらいのものだった。
「もう二度と風俗には戻らないよなぁ?」
そんな問いにまどかははっきりと
「はい。戻りません」
そう答える。
彼女が風俗に入ったきっかけは”自分を変えたかった”という風俗では稀なケースである。
そんな彼女にとって、今のまどかはまさに「生まれ変わった」
もう二度と風俗へは戻らないだろう
そう確信が持てた。
「そろそろ行くか」
今日は店を朝の部しか営業しない。
店の仲間達にも好かれたまどかの送別会には、店のほぼ全員が参加したいと言い、結局夜の部は臨時休業という形にしたのだ。
主役の入場は一番最後と相場は決まっており、
出席者全員が揃ったという連絡を受け、会場に向かう。
風俗の世界に足を踏み入れ、自分の目標を成し遂げ
円満に足を洗ってゆく人間をはたして私は何人見ただろう?
人の出入りはどの世界よりも「風俗」と呼ばれる世界が多いだろう。
面接は毎日のように行い、又去ってゆく人間も後を絶たない。
その去り際は、大体が「飛ぶ」という、店に断りを取らず勝手に去って行く。
他の店に行く者、何かに追われて去る者、その理由は解らない。
まどかのように店で送別会をして去ってゆく者はホンの数パーセント。
これが現実である。
言い方を変えるならば、この世界にはまどかような去り方がむしろ「非常識」
なのかもしれない。
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