デリヘル人情劇場 『放免桜』 ♯06
2003年5月25日所轄の警察から出ると、勘蔵さんを初めとし
店の者達が集まっていた。
春の日差しはやわらかく、我々の気分とは裏腹に燦々と辺りを照らしていた。
こんな時はどんな言葉を掛ければよいのか
迎えに来てくれたみんなに掛ける言葉は何一つ浮かんではこない。
まどかは一年前に「自分を変えたい」
そう言って店にやって来た。
一月ももたないだろう。
そう誰もが思っていた
一年が過ぎ、生まれ変わったまどかは自らの選択でこの風俗という世界から足を洗う事を選んだ。
「蚊」の鳴くような声しか出なかった彼女が、
常に何かに怯え、その表情にこわばりしかなかった彼女が
徐々に変わり垢抜けるとまではいかなくとも
一人の人として、
一人の女性として本来持ち合わせていたであろう本当のまどかに戻り、
誰もがそのがんばりに感心し、また喜んだ。
迎えに来てくれた誰とも目を合わせることなく助手席に座り、車が走り出そうとした時、何度か顔をあわせた事のある警官がその行く手に顔を覗かせた
「さっきあの娘さんの親御さんが来たがな、先方はあの子の葬式すら挙げる気が無いどころか、自分の娘だということさえ認めないと言い張っているらしい
まぁ自分らのような商売に手を染めていたと言うんだからな、親としては認めたくない気もわかる。でもな、お前最後はきっちりと話つけんとあの子が浮かばれんぞ!それだけだ・・・。」
先方へは勘蔵さんが連絡を入れてくれていた。
勿論私も警察の事情聴取が終わればまどかの家族には連絡をするつもりでいた。
まどかの部屋には両親に宛てた手紙が一通残されていた。
警察の判断は「自殺」であった。
ただ我々には納得の行かない事が多すぎる
どう考えてもその動機が解らない
「式を挙げない・・・ですか。」
我が子がもし風俗に身を染め、その行為が知れたとき家族の気持ちは一体どんなものなのか?
『あぁそうでか、がんばってるのか?』
そう言って納得をする家族がこの世にいかほど存在するのか
「あぁ、動揺も無くその子はうちの子ではありません。そう言ったらしい。
経緯はオレの知るところではないがな、後始末はしろよ。以上だ」
「わかりました。ありがと」
ゆっくりと進み出した助手席で得も言えぬ無力感に包まれていった。
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