午後3時20分

まどかの家族と話をするために帝國ホテルの一室へと向かった。
先方にとって我々の仕事がどのように映っているのかはよく理解した上で、冷静に話が出来る環境ということで事務所ではなく、ホテルの一室ということにした。

ラウンジ喫茶で一先ず待ち合わせをする。

「雨宮です」

やけに大きなソファーの背後から声が掛かる。
まどかの両親は私と目を合わせることなくゆっくりとソファーに腰を下ろした

「はじめまして。私、まどかさんの働いておりました店の責任者であります、でりまさとと申します。」

一礼をし見上げた雨宮氏の表情は冷たく、面を被った様に表情が同じであった。

「今回の件について、私の知っている限りのお話をさせていただきたくお電話させていただきました。大変な中、お時間を頂きありがとうございます。
今回の件は事も事ですので部屋をお取しております。
よろしければお部屋でお話させていただきたいのですが」

雨宮氏の反応は 「無」
表情を変えることなくただどこか一点を見つめている。
まどかの死にショックを隠しきれないのか、否か。

嫌な沈黙が空く

「・・・」

「------どういたしましょう。」






「つまり、まどかとか言う売春婦が今日死んだ。
そういうことなんだな。」


しばらくの沈黙が続き、発せられた言葉は私の心臓をえぐり出す一言だった
「まどかさんが俗に言う『風俗』と呼ばれる店で働いておられたのは紛れも無い事実です。そして今日お亡くなりになられたのも事実です。」

高鳴る鼓動を抑え、できる限りの冷静を装いそう答えた。

「その女はウチの娘でも何でもないんだよ。
昔に私の家族に娘がいたかもしれない、だがもう何年も前に縁は切れている肢体を売って街を彷徨う虫ケラを産んだ覚えはない。」

一生忘れることのない一言は、
感情を忘れ去られた能面の、薄っすらと開いたその口から
何の戸惑いもなく発せられたのであった。



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