デリヘル人情劇場 『放免桜』 ♯10
2003年6月12日先に11日分の♯9よりお読みください
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痩せ細った老体が私の横を通り過ぎた。
咄嗟に掴んだその身体は70を過ぎた老体とは思えぬ力で私を振りほどき、
雨宮氏へと向かっていった。
「親分サン、申し訳ねぇ!アッシはもうコイツを許してはおけねェんだ!」
言うより先に勘蔵さんの拳が雨宮氏に降り注がれた
ソファーから音を立てて転げ落ち、テーブルのグラスが割れる音と共に
周囲がざわめいた。
そして馬乗りになってもう一度、雨宮氏へと拳が落ちる頃にはざわめきは悲鳴へと変わってゆく。
勘蔵さんの目には涙が溢れていた
騒ぎを見つけホテルの人間と警備員らしき者がコチラに駆けてくるのが見えた
勘蔵さんには列記とした前科がある
例え放免になったとしても、ここでまた捕まったとなるとどうなるのか?
「勘蔵さんを逃がさなくてはいけない」
そう思い、止っていた私の体が動き出した
しかし、勘蔵さんの涙の意味は麗華にも、私にも、そして私に黙ってここに来ていたシホも、みんなよくわかっていた。
向かってくるホテルマンと警備員を押し戻した。殴ったかもしれない。覚えていない。何処からやって来たのか?シホも警備員と格闘しているのが見えた。殴っていたかもしれない。覚えていない。周囲は所謂パニックになっていたかもしれない。覚えていない。麗華はどうしていたのか?記憶にはない。
ただ、もう勘蔵さんに好きにさせてやらねば・・・。
だったら余計な者を近づけてはいけない
簡単な図式である。
正気に戻ったのは先ほどまで簡単な事情聴取を受けていた警察署に着いた頃であった。
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