「割ったグラスを弁償する気はあるか?」

取調べ室で待つ事一時間強

やっと入ってきた刑事は私にそう言った

「5倍にしてお返しします」

そう言うと刑事はアッサリと私に「じゃぁもう帰れ」と言った。

拍子抜けしたのが伝わったのか、もう一度

「もう帰っていいぞ」

と言った。

「何故です?なんて言うか、傷害及び器物破損で逮捕する!とかってならんのですか??」

「相手が被害届けを出さんのだから仕方ないだろうが。
それよりも、亡骸の供養をしてやれ。
あの男は体裁だけで生きている事で有名な社長だ!
お前ごときがどうのこうの言ったところで動くタマやない!
それからホテルにもよ〜く侘び入れとくんだぞ!」

まどかの親は世間では名の通った企業の代表取締役であった
いわゆる『社長』である。

自分の親族に『はみ出し者』がいたこと、自ら死を選んだ最後、
ホテルでの騒ぎ、全てを世間には出したくない。
そんな体裁だけで今回の事件はもみ消しとなった。

まどかは幾度となく親に向けて出した救いのサインを、
今回のようにもみ消され生きてきたのか・・・。

胸が締め付けられた

「わかりました。ご迷惑お掛けしました。
まどかの供養はウチでやります。
刑事さん、日時と時間が決まり次第刑事さんにお伝えしますので、
その旨を雨宮さんに刑事さんからお伝えしてもらえませんか?
伝えてもらうだけでいいですから」

いい人ぶる気はさらさらない。

でもまどかが本当に手を合わせてもらいたいのは我々ではなく

「親」ではないのか?

そんな気がして已まなかった

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