デリヘル人情劇場 『放免桜』 ♯14
2003年6月16日人の「死」に直面し、その中でも一番辛く感じるのは火葬場から肉体無き亡骸を見た時だと私は思う。
先まで存在していた体が跡形も無く消え去ってしまう。
記憶と言うもののあやふやさを実感するのが正にこの瞬間であり、
目を瞑り思い出そうとする在りし日の姿が、もうピンぼけのファインダーのようにしか浮かんでこない。
そしてもう確かめようにも二度と出来ないのだから・・・
もう彼女の笑う顔、声、こころは帰ってはこない
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「何してんだ?」
遺骨を骨壺へと納めている時、麗華が何かをしてるのに気がついた
「まどかチャン麗華モッテル瓶に入れておこう思いマス」
見るとコルクの蓋がついた小さな瓶にまどかの遺骨を納めていた
この行為自体が許されるコトなのかは解らない、
しかし麗華の気持ちはよくわかる
「もうしばらくはまどかはウチの一員だな」
「ヘイでし!」
葬儀も終わり、帰り支度をしていた時に一人の女性が現れた。
言うまでもなく、まどかの母であった。
「今頃ノコノコと何しに来てるのよ!」
険悪な雰囲気が漂う。
「この子をうちの墓に入れてやりたいのですが・・・。」
こちらの耳を彼女の口に引っ付けないと聞き取れないような
”蚊の鳴くような”声でまどかの母がそう言った
あいつの性格は母親譲りか・・・。
なんだか少し笑みがこぼれてしまった。
「勿論そうしてやって下さい、彼女もそれを望んでいるはずです。
彼女がやった仕事、つまり我々の仕事が世間でどう思われているのか、
そんなことはやっている我々が一番良く知っています。
ですが、ここにいる者達はここで得られる何かがあるのも良く知っている
んです。その辺を理解してやってください。
我々のしてしまった無礼、心からお詫びします。」
まどかの母はまどかの遺骨を受け取ると深々と頭を下げ帰っていった
しかし、帰り際に我々に渡した一枚の封筒は少々間違いであった。
その封筒には
「娘の式代です。お受け取り下さい」
と書かれた手紙と、まとまった金額の記された小切手が同封してあった
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「なぁシホ、こういったモノはどうするンだっけ?」
「え〜っと!こういったモノはね!」
シホは私の手から紙切れを奪い取るとビリビリに切り裂き
空めがけパッと投げ捨てた
桜の時期にはまだ少し早い
桜吹雪ならぬ紙吹雪が晴れ渡る空に舞い散った。
人に認められない仕事があるかもしれない。
だが、自分を認めるための生き方を否定できる人はいない。
デリヘル人情劇場 『放免櫻』前編
おわり
別に前編 後編に分ける意味も無いんですが、まぁなんとなく区切りってことで分けました。後編は20日頃からのup予定です
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