「割ったグラスを弁償する気はあるか?」

取調べ室で待つ事一時間強

やっと入ってきた刑事は私にそう言った

「5倍にしてお返しします」

そう言うと刑事はアッサリと私に「じゃぁもう帰れ」と言った。

拍子抜けしたのが伝わったのか、もう一度

「もう帰っていいぞ」

と言った。

「何故です?なんて言うか、傷害及び器物破損で逮捕する!とかってならんのですか??」

「相手が被害届けを出さんのだから仕方ないだろうが。
それよりも、亡骸の供養をしてやれ。
あの男は体裁だけで生きている事で有名な社長だ!
お前ごときがどうのこうの言ったところで動くタマやない!
それからホテルにもよ〜く侘び入れとくんだぞ!」

まどかの親は世間では名の通った企業の代表取締役であった
いわゆる『社長』である。

自分の親族に『はみ出し者』がいたこと、自ら死を選んだ最後、
ホテルでの騒ぎ、全てを世間には出したくない。
そんな体裁だけで今回の事件はもみ消しとなった。

まどかは幾度となく親に向けて出した救いのサインを、
今回のようにもみ消され生きてきたのか・・・。

胸が締め付けられた

「わかりました。ご迷惑お掛けしました。
まどかの供養はウチでやります。
刑事さん、日時と時間が決まり次第刑事さんにお伝えしますので、
その旨を雨宮さんに刑事さんからお伝えしてもらえませんか?
伝えてもらうだけでいいですから」

いい人ぶる気はさらさらない。

でもまどかが本当に手を合わせてもらいたいのは我々ではなく

「親」ではないのか?

そんな気がして已まなかった

先に11日分の♯9よりお読みください




::::::::::::::::::::::::::::




痩せ細った老体が私の横を通り過ぎた。
咄嗟に掴んだその身体は70を過ぎた老体とは思えぬ力で私を振りほどき、
雨宮氏へと向かっていった。

「親分サン、申し訳ねぇ!アッシはもうコイツを許してはおけねェんだ!」

言うより先に勘蔵さんの拳が雨宮氏に降り注がれた
ソファーから音を立てて転げ落ち、テーブルのグラスが割れる音と共に
周囲がざわめいた。
そして馬乗りになってもう一度、雨宮氏へと拳が落ちる頃にはざわめきは悲鳴へと変わってゆく。

勘蔵さんの目には涙が溢れていた

騒ぎを見つけホテルの人間と警備員らしき者がコチラに駆けてくるのが見えた

勘蔵さんには列記とした前科がある
例え放免になったとしても、ここでまた捕まったとなるとどうなるのか?

「勘蔵さんを逃がさなくてはいけない」

そう思い、止っていた私の体が動き出した

しかし、勘蔵さんの涙の意味は麗華にも、私にも、そして私に黙ってここに来ていたシホも、みんなよくわかっていた。

向かってくるホテルマンと警備員を押し戻した。殴ったかもしれない。覚えていない。何処からやって来たのか?シホも警備員と格闘しているのが見えた。殴っていたかもしれない。覚えていない。周囲は所謂パニックになっていたかもしれない。覚えていない。麗華はどうしていたのか?記憶にはない。

ただ、もう勘蔵さんに好きにさせてやらねば・・・。
だったら余計な者を近づけてはいけない

簡単な図式である。

正気に戻ったのは先ほどまで簡単な事情聴取を受けていた警察署に着いた頃であった。
足先から脳天にまで電気が走る
まさか本気で言ってる訳はない。
私を試そうとしているのか?何かの思惑があってのことなのか?
全てが理解できず、何をどうしてよいのか「無」に陥る。

「悲しくはないのですか?」


やっと出た言葉は言葉にならなかった
「ムシが死んで悲しむ人を君は見たことがあるのか?
私は・・・。
・・・・・・・・・無いな。」


何も理解できぬまま、ただ本能だけで立ち上がり拳を握った。
これほどまでに頭が真っ白になったことは今まで、この先無い。

ここがどこなのか?
一体何をしにここへきているのか?
辺りを見渡せど何も見えない。

ただ焦点は正面にある能面にだけピントが合っていた。

『オレは何をしようと思っているのか?コイツを殴るのか?
殴っていいのか?殴らないべきなのか?オレは何してんだ?』

そんな事が頭の中で廻っていたいた気がする
完全に思考回路が潰れていた私が正気に戻ったのは、
肩に添えられた手と、心地のよい香水の香りだった。


「社長。お忙しい中、申し訳ありません」

どこまでも冷静で落ち着いた声になだめられる様に、肩に添えられた手の力のままソファーに腰を下ろした。
そして私が座ったのを確認し終え、雨宮氏に一礼をしゆっくりと麗華が私の横に座った。

「まどかさんの第一発見者の麗華と申します。
この度は本当に悲しい事となってしまいました。」

麗華が雨宮氏に話し始めた時、そっと私の手に一枚の紙切れを握らせた。
その紙切れにはおそらく私立探偵の鎌田さんが調べてくれたであろう雨宮氏に関する情報が書かれていた。

「もしよろしければ、まどかさんの葬儀の場所と時間を教えてはくれませんか?私達のようなものでも人の心が通っております。お線香の一本でもあげさせていただきたいのですが・・・」

麗華が丹誠を込め話す”日本語”にはどこか迫力がある。
有無を言わせぬ筋が言葉に通っている

だが、雨宮氏はそんな麗華の言葉に顔色を変えることはない。

「葬儀?誰の葬儀だ?私に葬儀を挙げる様な人間はおらん!
何度言ったら解るんだ!警察に行ったのも義理だよ、義理!
いいかげんにしてくれ。私は忙しいんだ、もう失礼させてもらうぞ」


一度は堪えた感情が再び湧きかえるのに時間は必要としなかった。
だが、私よりも更に早く頭に来ていた人間が私の背後から雨宮氏へと向かっていた。




午後3時20分

まどかの家族と話をするために帝國ホテルの一室へと向かった。
先方にとって我々の仕事がどのように映っているのかはよく理解した上で、冷静に話が出来る環境ということで事務所ではなく、ホテルの一室ということにした。

ラウンジ喫茶で一先ず待ち合わせをする。

「雨宮です」

やけに大きなソファーの背後から声が掛かる。
まどかの両親は私と目を合わせることなくゆっくりとソファーに腰を下ろした

「はじめまして。私、まどかさんの働いておりました店の責任者であります、でりまさとと申します。」

一礼をし見上げた雨宮氏の表情は冷たく、面を被った様に表情が同じであった。

「今回の件について、私の知っている限りのお話をさせていただきたくお電話させていただきました。大変な中、お時間を頂きありがとうございます。
今回の件は事も事ですので部屋をお取しております。
よろしければお部屋でお話させていただきたいのですが」

雨宮氏の反応は 「無」
表情を変えることなくただどこか一点を見つめている。
まどかの死にショックを隠しきれないのか、否か。

嫌な沈黙が空く

「・・・」

「------どういたしましょう。」






「つまり、まどかとか言う売春婦が今日死んだ。
そういうことなんだな。」


しばらくの沈黙が続き、発せられた言葉は私の心臓をえぐり出す一言だった
「まどかさんが俗に言う『風俗』と呼ばれる店で働いておられたのは紛れも無い事実です。そして今日お亡くなりになられたのも事実です。」

高鳴る鼓動を抑え、できる限りの冷静を装いそう答えた。

「その女はウチの娘でも何でもないんだよ。
昔に私の家族に娘がいたかもしれない、だがもう何年も前に縁は切れている肢体を売って街を彷徨う虫ケラを産んだ覚えはない。」

一生忘れることのない一言は、
感情を忘れ去られた能面の、薄っすらと開いたその口から
何の戸惑いもなく発せられたのであった。




きょう、女と過ごした。半日……汗が全身から吹き出した。
若い女だ。瑞々しい肢体が、まぶしかった。

「どうしたらいいの?」
 女が問う。

「足を開け……」
 女は戸惑った。体にも汗がにじんでいた。

「ほら、腰を落として……」
 女は、私の言葉に従った。

「いい?」
「あぁ、いいよ」

 ストッキングを脱いでいるので、締まりのいい足首がむき出しになっている。どこで素肌をさらしているのか、汚れのない両足は小麦色の肌で覆われていた。女は、丸みのある艶めいた尻を私に向けると、ゆっくりと腰を落とした。

「……それでいい……」

 私は、女の背中に声をかけた。女は静かに、そしてゆっくりと、上半身をくねらせた。しかし、慣れないことに戸惑いを覚えるのだろう、すぐにでも腰を浮かせそうな様子だ。でも、まだ早い。まだ、始めたばかりなのだから……

「……ほら……声を出して……」

 私は、優しく促した。
女は恥ずかしそうに肩を震わせたが、
やがて顔を上げると、










「よーし!しまっていこぅ!!」






 ホームベースに持ち慣れないボールを押しつけ、声を張り上げた。

「ちゃんと、取れよ!」
 私も、守備位置についた選手たちに、声をかけた。

草野球にて/でりまさと


**************************

『放免櫻』は今日はひと休ということで、
久々の短編ショートショート

こんなんお嫌いですか(笑)

麗華はまどかの最期の第一発見者であった。
本当なら今頃まどかと共に久しぶりに「イマドキ」の女の子と同じように街を歩いていたはずだった。
麗華にとってこのことがどれだけショックであったかは容易に想像がつく。
言葉を失ってしまった麗華は一粒一粒の涙に悲しみの全てを詰め込み枯れることなく啼き続けた。

まどかの教育係りであったあかねは人目を気にする事もなくただただ大声で悲しみの全てを吐き出した。

まどかに一番最初に会ったのは面接の送迎に向かった勘蔵さんであった。

「ぃや〜親分さん。あの客人、車で一言もしゃべりャせんですぜ・・・
アッシが粗相でもしちまいましたかなァ・・・
ム所に新入りでへぇって来る(入ってくる)奴よりも、暗ェ顔つきですゼェ・・・
アッシは車の中で首でもかっ切らねぇかハラハラいたしやした・・・」

勘蔵さんが当店【Brutus】に入店し、一番最初の仕事がまどかの面接の送迎であり。そしてまどかの第一印象をそう語った。
その後も勘蔵さんはまどかと仕事を組むことが多く、孫を見るかのようにしばしば気に掛け、またまどかも勘蔵さんを信頼し慕っていた。
故に思い入れは大きい。
勘蔵さんは手に持つハンドルを震わせながら、見つめる視線を涙で歪めた。

事務所に戻り泣き声だけがただ響き渡る時間が流れる

どれ位経った頃だろうか、
朝から現場へと行っていたシホがドライバーに抱えられ事務所へと戻ってきた

シホは目を腫らし私の胸に何度も何度も拳をぶつけそのまま床に崩れ落ちる

シホはまどかと同い年の19歳である。
シホはまどかが入店した頃には既に風俗の隅々まで知り尽くし、風俗の世界では「知る人ぞ知る」という存在にまでなっていた。
シホはまどかに「風俗」という世界の全てを教え、まどかの風俗嬢としての成長だけではなく、生き方への考えにまで全てを語り合っていた。

「あの、でりさん。ポストにこんなものが・・・。」

シホを連れて帰って来たドライバーが
ポストに入っていた一通の封書を手渡した。

その封書はまどかが私達に宛てて書いた、最初で最期の遺書(てがみ)
でした。

所轄の警察から出ると、勘蔵さんを初めとし
店の者達が集まっていた。
春の日差しはやわらかく、我々の気分とは裏腹に燦々と辺りを照らしていた。

こんな時はどんな言葉を掛ければよいのか
迎えに来てくれたみんなに掛ける言葉は何一つ浮かんではこない。

まどかは一年前に「自分を変えたい」
そう言って店にやって来た。
一月ももたないだろう。
そう誰もが思っていた
一年が過ぎ、生まれ変わったまどかは自らの選択でこの風俗という世界から足を洗う事を選んだ。
「蚊」の鳴くような声しか出なかった彼女が、
常に何かに怯え、その表情にこわばりしかなかった彼女が
徐々に変わり垢抜けるとまではいかなくとも
一人の人として、
一人の女性として本来持ち合わせていたであろう本当のまどかに戻り、
誰もがそのがんばりに感心し、また喜んだ。

迎えに来てくれた誰とも目を合わせることなく助手席に座り、車が走り出そうとした時、何度か顔をあわせた事のある警官がその行く手に顔を覗かせた

「さっきあの娘さんの親御さんが来たがな、先方はあの子の葬式すら挙げる気が無いどころか、自分の娘だということさえ認めないと言い張っているらしい
まぁ自分らのような商売に手を染めていたと言うんだからな、親としては認めたくない気もわかる。でもな、お前最後はきっちりと話つけんとあの子が浮かばれんぞ!それだけだ・・・。」

先方へは勘蔵さんが連絡を入れてくれていた。
勿論私も警察の事情聴取が終わればまどかの家族には連絡をするつもりでいた。

まどかの部屋には両親に宛てた手紙が一通残されていた。
警察の判断は「自殺」であった。

ただ我々には納得の行かない事が多すぎる
どう考えてもその動機が解らない

「式を挙げない・・・ですか。」

我が子がもし風俗に身を染め、その行為が知れたとき家族の気持ちは一体どんなものなのか?

『あぁそうでか、がんばってるのか?』

そう言って納得をする家族がこの世にいかほど存在するのか

「あぁ、動揺も無くその子はうちの子ではありません。そう言ったらしい。
経緯はオレの知るところではないがな、後始末はしろよ。以上だ」

「わかりました。ありがと」

ゆっくりと進み出した助手席で得も言えぬ無力感に包まれていった。









まどかに絡みついた縄を振りほどく

音を立て伏せた弱さに行き場を失う

跡形さえなくなったこころを抱き上げる

そこにはもう「何も」無い





傍に聞こえるこころからの啼き声だけが

ただ ただ

私のこころを撃ち続けた






必要の無い街で出会い

必要の無い絆は

何を望み

認め遭い

瞬間を共にするのか


跡形さえなくなったこころを抱き上げる

そこにはもう「何も」無い




どれだけ問い質そうが


そこにはもう「何も」無い




人を愛する事も

人に愛された事も無い

ただすれ違っただけの

ひとつの「大きな」こころは

愛を売るだけの

必要の無い街で

音も無く消えた



   ・

   ・

   ・

   ・

   ・
更新をホッタラカシのでり君であります。
しかも『放免桜』は一ヶ月ぶりの更新。
そろそろやりましょ。

きっと誰も前回の更新時の話なんて記憶の片隅にもないでしょ?
もちろん本人もどこまで書いたのか?なんて覚えていません。。

つうことで、前回の更新を再びUPし、
さらに下に新しいものをUPさせませた。




人の命には必ず訪れる何かがあります。
それは皆平等に、間違いなくやってきます。

人は死ぬために生きるのか

人は生きてこそ死あるのか



生きる証しに散りゆく「いのち」がある

デリヘル人情劇場

『放免櫻』



この物語は実話99%脚色1%未満で
日刊でりぃ新聞がお送りいたしヤス。
    本日の更新
        ↓
デリヘル人情劇場 『放免桜』 ♯00 プロローグ
        ↓
デリヘル人情劇場 『放免桜』 ♯01
        ↓
デリヘル人情劇場 『放免桜』 ♯02
        ↓
デリヘル人情劇場 『放免桜』 ♯03
        ↓
デリヘル人情劇場 『放免桜』 ♯04


の順に更新してあります。

最後に、新しくリンクを貼っていただいた皆様
有難う御座います。

生意気ではありますが、ご挨拶は後日させて下さい。よろしくお願いします。
ほんの数名にしか知られていないのだが、
多くの思い出と、多くのこころが詰まった一本の桜の木がある
その桜は今でも毎年満開の華を咲かせている。

多くの思い出と、多くのこころが詰まった一本の桜

この桜木を『放免桜』という。






大川の流れる都島区桜ノ宮
ここは桜の名所で有名である。

この時期、花見の見物客で賑わうこの川縁だが
やっと陽の昇ったこの時間に、まだ人影はまだらであった。

「ワシものぉ、デカの頃には数知れない人様の人生に首を突っ込んだ。
でり坊、ム所から放免になってお天道様の下に出てくる人間はのぉ、
この桜の時期が一番多いんじゃのぉ・・・
何故だか分るかぁ?」

桜並木に並ぶベンチに腰を下ろし、当店【BRUTUS】の相談役である鎌田のおやじがゆっくりと話し始めた。

「さぁ・・。 なぜです?」

「桜はのぉ、心を思い出さすんじゃょ。日本人の「こころ」をのぉ。
閉ざされた塀から出て、この時期放免になったヤツらはのぉ、
多くが桜の咲く場所へ足を運びたくなるという。
そして桜木を拝んでのぉ、自分の犯した罪を今一度こころに刻み込み、
来年もこの桜を拝めるよう人生一からやり直す。
桜の花は日本人に刻まれた「こころ」が宿っておるんじゃのぉ・・・。」

桜の木の下で宴会をしたという記述は『日本書紀』にも書かれている。
太古から桜は日本人に愛され、親しまれてきたのだろう
桜は日本人の「こころ」をずっと癒してきている

「一度罪を犯した人間が、例えその罪を償って放免になったとしてものぉ、
本当の放免はやってはこないんじゃのぉ・・・。」

「本当の放免ですか・・。」

「そいつに命ある限り、本当の放免はやっては来ない。
そういうことじゃの・・・」

この鎌田氏は元刑事であった。
定年を前に退職をし、今は小さな探偵事務所を開き生活の糧としている。
話の最後に「の」とか「のぉ」と言うのが彼の口癖であり、
店の者達は彼を「ののじぃ」と呼んでいる。

「でり坊。今年の桜もよぅ咲いとるのぉ
この桜はのぉ、『放免桜』じゃ・・・

勘蔵にものぉ、やっと本当の放免がやってきたわぃ・・・。」

ベンチから立ち上がり、一本の桜の木をポンポンとたたき、
ののじぃはゆっくりとまたベンチに腰を下ろした。

「でり坊、オマエさんの事もなぁ、ちいと調べさせてもろうたわぃ。
オマエさん、もう全て終わっておろうが・・・。」

ののじぃの言いたい事はよくわかった。

私にもこの風俗という世界で働く理由があった。
たまたま結果が風俗という闇夜の世界だったのかもしれない。
だがその根本の理由はデリバリーヘルス【BRUTUS】で働く女性従業員たちと同じである。
この仕事を長々と続けられるものではない。
また、続けてゆくものではない。

「そうですね。私もそろそろ引き際ですね」

勘蔵さんのために名付けられたこの「放免桜」の下で、
この世界での散り際を見定めた。



早朝から、やわらかな陽射しが窓から見える風景を包みこんでいる。
空はあくまでも青い。清々しい空気を胸いっぱいに吸い込んで、爽やかな朝を満喫したいところだったが、当店【BURUTUS】の朝はそんな雰囲気ではない。

朝日が昇る頃に仕事の終わる我々は、この時間に一日の疲れがやってくる。
『デリバリーヘルス』という風俗の世界で生き抜くもの達にとって、この朝日は眩しすぎる。かつては皆、この朝日に喜びを感じていたのだが、今はこの朝日を懐かしみながらもどこか避けている。

「オヤブンサン!まどかチャンノ明日、送別カイネ!レイカ幹事ですからデシテ、遅れないでクダサイよ〜」

麗華は当店【BRUTUS】の受付嬢であり、現役の風俗嬢でもある。
中国人と日本人のハーフであり、
少々間違っている日本語は彼女の愛嬌である。

「そうかぁ、まどかも明日で終わりか。で、どこで送別会するんだ?」

「でりサン”セイダイ”にやってやれテ言いましたカラシテ、叙々園レイカ予約したアルよ〜!」

まどかは一年程前にウチにやって来た。
こちらの耳をまどかの口元へと近づけないと聞き取れない声で彼女は

「自分を変えたい・・・です」

そう風俗に入る理由をつぶやいた。
一ヶ月はもたないだろうと思っていたのだが、まどかはこの闇夜の世界で一年をすごした。
彼女の教育係が当店のクレーム処理班であり、ムードメーカーであるあかねだったということもあり、また彼女の入店後入ってきた現在当店NO1であるシホがよく面倒を見た甲斐もあり、彼女は変わった。
誰もが認めるほどに生まれ変わったまどかは、誰よりも努力をした。

3月23日
彼女の陽の当たらない生活は終わりを告げるのであった。




まどかにとって当店【Brutus】での最後の出勤が終わった。
今までお世話になった方々への挨拶をしに一緒に回り、心に残った客へのお礼の電話をいれる。

 いつからこんなにいい笑顔を作れるようになったのか?
そんな事を考えていた私であったのだが、その考えは間違えであると気づく。
いい笑顔が作れるのではない。
私の知らない本来のまどかが戻ったにすぎないのだ。

「色々とお世話になり、本当にありがとうございました。」

まどかのそんな言葉がむず痒い。
特にまどかに何かをした訳ではない。
確かに入店当初のまどかには手を焼いたが、何かをやらかして とかではなく、あまりに暗すぎてどうしたものか・・・。などと考えを廻らしたくらいのものだった。

「もう二度と風俗には戻らないよなぁ?」

そんな問いにまどかははっきりと

「はい。戻りません」

そう答える。

彼女が風俗に入ったきっかけは”自分を変えたかった”という風俗では稀なケースである。
そんな彼女にとって、今のまどかはまさに「生まれ変わった」
もう二度と風俗へは戻らないだろう
そう確信が持てた。

「そろそろ行くか」

今日は店を朝の部しか営業しない。
店の仲間達にも好かれたまどかの送別会には、店のほぼ全員が参加したいと言い、結局夜の部は臨時休業という形にしたのだ。

主役の入場は一番最後と相場は決まっており、
出席者全員が揃ったという連絡を受け、会場に向かう。

風俗の世界に足を踏み入れ、自分の目標を成し遂げ
円満に足を洗ってゆく人間をはたして私は何人見ただろう?
人の出入りはどの世界よりも「風俗」と呼ばれる世界が多いだろう。
面接は毎日のように行い、又去ってゆく人間も後を絶たない。
その去り際は、大体が「飛ぶ」という、店に断りを取らず勝手に去って行く。
他の店に行く者、何かに追われて去る者、その理由は解らない。

まどかのように店で送別会をして去ってゆく者はホンの数パーセント。
これが現実である。

言い方を変えるならば、この世界にはまどかような去り方がむしろ「非常識」
なのかもしれない。


「まどかちゃん!お疲れ様!」

店に入ると【BRUTUS】の『仲間達』が花束を抱えまどかを出迎えていた。
このときすでにまどかは「半泣き」である。

接客のプロ集団である皆ではあるが、まどかへの労いの言葉には何一つ濁りの無い「こころ」からの祝福であった。

そう思う。

勘蔵さんの横の席に腰を下ろすと、既に「出来上がった」勘蔵さんが顔を紅く染め、ニコニコと孫達を見つめるような笑顔でグラスに口を運んでいた。

勘蔵さんにも我々くらいの孫がいても不思議ではない歳、
勘蔵さんにはどのような家族があるのだろうか?
家族自体があるのだろうか?
ふとそんなことを考えずにはいられないのだが、
踏み込んではいけないこともある。
踏み込まないのがこの世界の暗黙の了解であった。

宴はどのくらい続いたのだろうか?
私も久しぶりに酒に酔った。
うれしかった。

まどかが最後にどんな言葉を言ったのかさえ記憶にない。
泣いて、笑った。

店を出て皆は2次会へと行くようだった。

私と勘蔵さんはここで皆とは別れ、
行きつけの「きゅうり婦人」で二人で呑むことにした。

「オヤブンしゃん!アシタ麗華ハ、マドカチャンと朝カラですネお買イモノへ行くですカラシテ、朝ノ部はお休みデスカラ、一人でチャント起きてくださいアルヨ!」

呂律の回らない麗華のいつもにまして「変」な日本語だけが頭にインプットされた。

「あいょ〜!任せとけって!ゆっくりしてきな!」

その麗華の後ろで丁寧に頭を下げるまどかに、手を挙げて応えた。
私とまどかの最期の瞬間だった。



事態の異変に気づいた勘蔵さんが事務所のソファーからゆっくりと起きだしてきた。
勘蔵さんも、昨日は私と同じく記憶の無くなるまで呑んでいたに違いない。
違いないとは、もちろん私自身に記憶が残っていないためだ。

「とにかく今からすぐそっちに行くから待っとけ!
そこから動くなよ!」

電話を切ってからおそらくはホンの数秒だったとは思うのだが、私は動く事が出来なかった。人は本当にパニックに陥ると動けなくなる。

「いったいどうしやシタ?」

勘蔵さんに声を掛けられ我に返った

「どうやらまどかに何かあったみたいなんです。
しかも、簡単な事態ではないようで・・・」

「・・・と、言いヤスと?」

「行ってみないと解りませんが、とにかく嫌な予感がしてならないんです。
最悪な事態が起こっている様な・・・。
一体何故そうなったのか?
と言うより、一体何があったのか?
・・・・。すみません。私どうやらパニックです・・。」

勘蔵さんもとにかく大変な事態だという事は薄々把握してきたようで、
その顔が引きつりかかっている。

「ナニがドウであれ、まずはまどかの家に行って来ます。
勘蔵さんはここに残ってください!」

「ヘイ!了解しヤシた!
それから親分さん、まずは落ち着いてクダセェ。
でっかい気持ち、忘れないで下さいヤシ」

事務所を出る間際に、同じく事務所で寝起きを共にしているシホが髪の毛を乱し、寝むたそうに自室から出てきた。
朝の部、夜の部を通じて働くシホにとって、また新しい朝が来ている。

この日常の光景がなんともいえぬ気分にさせた。

もしかするともうこの日常が戻ってはこないのではないか・・・?

まどかの家は当店【BRUTUS】が在籍する女子従業員の為にとあるマンションを間借りし寮としているうちの一軒であった。
当店を円満に去ってゆくまどかはここを明日引っ越す手はずとなっている。
そして今日、まどかは麗華とともに引越し先で使う家具や雑貨を見に行くと言っていた。

一体ナニが起こったのか・・・。

ただそれだけが呪文のように頭を廻る

事務所からそのマンションまでは車で10分程の距離にある。
車のアクセルを踏み込む足が小刻みに震えているのが判る。
その感触は車を降り地面を踏みしめた時、さらに大きな震えに変わっていた。









夢を見た。

町を歩いていると突然雨が降出しました。

その雨の一粒一粒がとても大きい。

よく見るとそれは雨ではなく、







ぶたまん








でした。

ぼくは、「もう!こんな時によりによってぶたまんかよ!
体がにんにく臭くなるやん!」

って思いました。

降り止まないぶたまんを一つ手に取り口へと運ぶと、

それは「老祥記」のぶたまん でした。

ぼくは、「ラッキー!老祥記のぶたまんやん!」

って思いました。

なぜラッキーなのかと言うと、ここのぶたまんは口に入れたと同時に肉汁があふれ出し、口中に至福の歓喜が訪れるすばらしいぶたまんだからだ。

降り注ぐぶたまんをもう一つ頬張ろうとしたその時

ぼくは夢から醒めた。

服を着替えぼくは神戸の南京町へと急いだ。

南京町の門をくぐり、真っ直ぐ行けば広場の前に老祥記はある。





















本日臨時休業 店主





















休みかよ!!!!!!!!!!




















しかも臨時で・・・・・・。

現役復帰?!

2003年5月12日

露出の季節でっせぇ〜!お客さん!(ハぁ??

最近またもや「夜」のお仕事に復帰したでり君でっす(オィ・・

と言うのもですね、職員さんがですねぇ、忌引きでお一人
あ〜んど。飛んでしまったチックな職員さんが約一名いまして、今月の勤務予定が大幅に変更と相成りまして、
夜勤→明け→公休→夜勤→明け→公休→遅出(AM11時出勤)→夜勤→明け→公休→日勤→夜勤→明け→公休
→夜勤→明け→公休・・・。
と殺人的な勤務へと移行しまして、超連続夜勤が続くのであります。

「お代官様ぁ〜!こりゃちぃぃと厳しいんでないですか!?
これじゃぁアッシらの田植えの季節に大事な苗が植えれません!このままじゃ年貢が収めれねぇでやんす!お代官さまぁぁぁあああ!」

「え〜〜ぃ!何をぬかすか!!おめぇら下僕どもはお上の言うことをへぃへぃと聞いてりゃいいんでぇ!メシが食えるだけ有難いと思わんかぁぁぁあああ!!ぇええぃ!頭が高い!頭が高い!!!!」

と言わんばかりのシフトなんです・・・。
そうそう、その昨日の夜勤のO時の巡視の時にデスネェ、
寝ている利用者さんを起こさないように

そ〜〜〜〜〜ぉ  と部屋のドアを空けますと、

そのドアの向こうにぴっっっったりと

そ〜〜〜〜〜ぉ  と張り付いていたおばぁちゃん(入れ歯無し)と出くわしまして、あたしゃ死ぬほどビックリして手に持っていた懐中電灯で思わず殴りかかりそうになりました(未遂)
もうちょっとであのおばぁちゃんがお岩さんになるところだったのよん♪(オィ!

そのおばぁちゃん曰く

「あのね、塗り絵が出来たからね、ボクちゃんにね(でり君)
見せに行こうとね、思ったの♪」

今後夜中に塗り絵は禁止です!!(つか普通はしない!

不覚にもあまりにビビッてしまい、一息つこうと給茶器で冷水を飲もうと思いレクルーム(みんなでゲーム等をする部屋)
へ行くと(もちろん消灯済み)いきなり白い歯だけが暗闇に浮かんだ。。。。。。

利用者「うゎ〜〜〜〜っっっ!!」
でり君「うぎゃぁぁあああああ!!」

今度はしりもちをついてしまった・・・・。

「もぉぉにいちゃんびっくりさせんでよぉぉぉおお!」

あんたがや!!

今後は消灯後部屋から出ることを禁じます!!


それではごきげんよう



今日は休みだったので、夕飯がてら散歩へと出かけた。
丸一日降り続いた雨は上がり、
外は肌寒い。

電車に乗り、二つ目の駅で下車
そこで夕飯を済ませ、歩いて帰ろうと思った。

駅を出て一つ目の角を曲がると、
何やら少し、いや・・。
かなり生臭い臭いが鼻を突いた。
何日かそのままにした生ゴミのような臭い。

「何の臭いだろう?」

そう思い道を進むにつれ、鼻に突き刺す臭いは増す

道の先に小さな公園があり、
そこに一人のお姉さんが犬の散歩をしていた。
眼鏡をかけた細身のお姉さんは、どこかしら
B級インディーズエロビデオの女教師役で出ていそうな
お姉さんであった。(失礼だょ!)

ストーリーとしては、ロッカールームで更衣をしてた女教師の奈美子(推定年齢32歳)が盗撮をしていた自分の教え子を見つけ、注意をしていた矢先にその男子生徒に犯されてしまう・・・。

まぁそんな感じのお姉さん。(どんな感じゃ!)

そのお姉さんの近くに行くにつれ臭いは強烈になっていった

そして、奈美子の横を過ぎようとし、手に持ったリードの先をふと見ると、
公園の暗闇でムシャムシャと草を頬張るかなりの大型犬が目に入った。

「ん??待てよ!?」

もう一度

そして、奈美子の横を過ぎようとし、手に持ったリードの先をふと見ると、
公園の暗闇でムシャムシャと草を頬張るかなりの大型犬が目に入った。

どこかおかしい・・・。

ムシャムシャと草を頬張る大型犬・・・・。

「犬が草食うか??」

奈美子の横を通り過ぎてからここまで0,78秒


もう一度しっかりと見直した奈美子のリードの先にいたモノ


思わず声にして言ってしまった。。。


『馬!?』

そう、女教師奈美子が散歩をしていたのは、犬ではなく『馬』

そんな馬鹿な!!なんてくだらない洒落は置いといて、
本当にこんな街中で『馬』が散歩をしていた。

B級インディーズエロビデオの女教師と思われた奈美子は、実はチョークを鞭に持ち替え、馬を操るB級インディーズエロビデオの調教師役だったことが判明。

『馬!?』と思わずこぼした私の言葉に、奈美子は何食わぬ口調で

「馬」

とだけ答えた。

男子生徒に犯される筈のM女教師は

「さぁ早く私の言う通りにヒヒ〜ン!と啼きなさい!」

なんて言う鞭を持った女王様だったのか・・・。

自分の見る目の衰えを感じたでりまさと
29歳と1日


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

どちら様か、この散歩する犬ならぬ『馬』の情報をお持ちの方、ご一報下さい。
目撃は、阪急今津線西宮北口近辺
目撃時間5月8日20:30頃

日刊でりぃ新聞はこの散歩する馬をフィルムに収めるべく
追跡調査をいたします。

詳しくは後日HPにて

生まれちゃったよ

2003年5月7日

はっぴばぁ〜すで〜とぅ〜み〜♪
はっぴばぁ〜すで〜とぅ〜み〜♪

ちゅうことで、20代も佳境になってしまいました。
この世に世を授かって幾年か・・・。ハァ・・・。

この歳になって思う事

・抜け毛が気になりだす。
・階段が辛い。
・メシを食らうスピードが遅くなる。
・肉より魚が美味く感じる。
・ミニスカートよりも大胆なスリットに目が行く。
・おしりの大きな女性に安産だね!って心でつぶやく。
・湯船に浸かると「あぁっっ!いい湯だ!」って言ってしまう。
・枕におじさん臭が染み付いていないかチェックしてしまう。
・夕日を見る目が細目になる。


でりまさと本日29回目のハッピーバースデー

PS.もぐ様 誕生日おめでとうございます。


「あ・うん」の話

2003年5月5日

よく「あ・うん」の呼吸とかって言いますよね。

その
「あ・うん」
ってどういう意味かご存知ですか?

先日観に行った「非公開文化財特別拝観」
の大徳寺唐門には、様々な動物の彫刻が刻まれていました。
竜や鯉などどの動物も一組2匹の同じ動物が彫刻されています。

一方が口を「あ」と大きく開け、
一方が「うん」と口を噤(つぐ)んでいます。

人は生まれた時に、口を大きく開き

「おぎゃあ!」と泣いて生まれます。

そして、人生を終える時に
口を閉じ人生を終えてゆきます。

これは誰もが通る道。

人生の決まりきった道という事から「あ・うん」の呼吸という言葉となりました。

この国宝を観て思ったこと

あなたが生まれたとき、
周りの人は笑って、
あなたは泣いていたでしょう。

だからあなたが死ぬときは、
あなたが笑って、
周りの人が泣くような人生を
おくりなさい。


そうして初めて、
あなたの生まれた意味が持てるでしょう。



どうも最近なんというかスランプ状態の続くでり君です

ほぼ毎日パソコンとは向き合って、フロッピーを流し込み
何かを書こうとは思ってはいるのですが、どうしても書けません。
なぜでしょか???
元々あちきはアナログ人間でして、今でも鉛筆とノートはカバンの中にいつも入っています。
道を歩いていたり、電車の中でも何かを感じるとノートを取り出しメモを取ります。

○月×日「あ・うん」人はおぎゃぁ→黙って死んでゆく→喜ばれ生まれ悲しまれ散る/その反対・・・

みたいな感じでメモ書きをしておいて、後からupした日記のような
「あ・うん」の日記に書き直す とか、

ほぼ他人が見ても理解が出来ない状態のメモ書きがズラズラと読んだ本や雑誌にも書いてある訳です。

その細切れの箇条書きを張り合わせて文章にする訳なんですが、その箇条書きに気持ちが乗ってないのでしょうなぁ・・

と、自分で自分を分析してみるのですが、本人がそう言っているのだから間違いありません。

書き始めた日記に「つづく」なんて書いても、その書いた日の気分と次の日の気分が違っていればもうアぅチ!なんです。同じテンションの時にしか書けないというなんともヘタレ君なのです。

例え既につづくとか書きながらも既に完成していたとしても、テンションが前日と違えばUPさえ出来ないヘタレ具合なのれす。。。

人の日記なんかでモロに影響を受けまくりのでり君は、他人の日記で感情移入しまくって、なんだかあの人は大変なのかなぁ??とか
「ここを乗り切れば大丈夫だよジョニー!」
みたいなことを考えているうちに自分の日記を書く気が無くなり、いつのまにか机をよだれで汚して目覚めるのである。

文面、口調すべてバラバラでんなぁ・・・。

まぁそんなトコロです(意味不明すぎ)







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